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『潰れかけ喫茶店ごと異世界転移したので、黒猫と静かに営業していたら最強の休憩所になっていました』  作者: CASCADE


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第七十一話 厨房からの甘い誘惑




翌朝、いつもと変わらない爽やかな朝の光が

黒猫亭の店内に差し込んでいた。

朔夜はいつものように、開店前の仕込みを黙々とこなしていく。

珈琲豆を挽き、お湯を沸かし、

焼き立てのパンの香りが店内に満ちていく。


ふと厨房の冷蔵庫を開けると、昨夜仕舞い込んだ

ルリリンゴのソースを小分けにした容器が目に入る。

神様の「店を守る権限」によって、

出来立てと全く変わらない鮮やかな瑠璃色のまま、

そこに静かに収まっていた。


(今日の夕方には、レインさんが見本の瓶を持ってくるな)


そんなことを考えながら、朔夜は冷蔵庫の重い扉を

静かにしっかりと閉めた。





やがて昼時を迎え、店にはいつものように

お腹を空かせた常連の男性客たちが次々とやってくる。


「うっす、マスター! 今日も珈琲と、

いつものサンドイッチを頼むわ!」


元気よくドアを開けて入ってきた彼らは、

カウンターのいつもの席にどっかと腰を下ろすと、

ふと、何かを察知したように鼻をぴくぴくと動かした。


「……ん? なぁマスター」

「どうしました?」


サンドイッチの具材を準備していた朔夜が顔を上げると、

男たちは厨房の奥を覗き込むようにして、

さらに深く息を吸い込んでいる。





「なんかさ……気のせいか、ここ数日、

この厨房の奥から、嗅いだことのないすげえ良い香りがしねえか?」

「香りが、ですか」

「おう。いつも通りの美味そうな珈琲やパンの匂いに混じってよ、

なんかこう、もの凄く濃厚で、

それでいてすっきりした、果物みてえな甘い匂いだ」


毎日通ってくれているだけあって、鼻が非常に利く。

昨夜、ルリリンゴを鍋で煮詰めた際に出た

上質な甘い香りの残り香を、僅かに感じ取ったらしい。


カウンターの隅では、昨夜その果肉のおねだりに成功したクロノが、

「ふふん」と自慢げに喉を鳴らして客たちを見つめていた。





「あ、俺もそれ気になってたんだよ」


隣の席の客も、「だろ?」とばかりに身を乗り出してくる。


「普段のお菓子の匂いともちょっと違うっていうか……。

なぁマスター、もしかしてまた何か、

とんでもなく美味いもんを隠してんじゃないのか?」


常連たちの食い気気味な視線に、

朔夜は困ったように肩をすくめ、悪戯っぽく微笑んだ。


「隠してはいませんよ。ただ、ちょっとね」

「なんだよ、思わせぶりだな! 教えてくれよ!」





「もう少ししたら、ちゃんとお披露目します。

近いうちに、面白い期間限定の新メニューを出す予定ですから、

楽しみに待っていてください」


「新メニュー!? しかも期間限定だと!」


男たちは目を輝かせ、ごくりと喉を鳴らした。

「絶対に食うからな!」と息巻く常連たちに、

「はいはい」と苦笑しながら、朔夜は出来立てのサンドイッチを差し出す。


まだこの世界の誰も見たことがない、あの瑠璃色のデザート。

お客さんたちの期待に満ちた反応に、

朔夜の胸の中にも、静かな高鳴りが宿り始めていた。

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