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『潰れかけ喫茶店ごと異世界転移したので、黒猫と静かに営業していたら最強の休憩所になっていました』  作者: CASCADE


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第七十話 商人の舌と職人のこだわり




スプーンですくい、クリーム色のプリンと

瑠璃色のソースを一緒に口へと運ぶ。

つるんとしたなめらかなのど越しと共に、

卵と牛乳の優しいコクが広がり、

すぐ後にルリリンゴの濃厚で上品な甘みが全体を包み込んだ。

ほんの少し加えたレモンの酸味が効いていて、

後味は驚くほど爽やかだ。


「……うん、美味い。これなら文句なしだ」


これなら男性客でも重すぎず、女性や子供には

星やハートの見た目でも楽しんでもらえる。

メニュー化を確信した朔夜だったが、すぐに売り出すことはせず、

まずはこの果実を届けてくれたレインに

一番に食べてもらおうと、彼の来店を待つことにした。





その日の夜、閉店時間が近づき、

そろそろ看板を下ろそうかという頃。

カランカラン、と静かにドアベルが鳴り、

見慣れた旅の商人が姿を現した。


「やあサクヤ、今日も一日お疲れ様。

例の果実の調子はどうだい?」

「お待ちしてましたよ、レインさん。ちょうど良いところに」


朔夜は悪戯っぽく笑うと、カウンターの奥から

冷やしておいた試作のプリンを取り出し、レインの前に差し出した。


クリーム色のプリンの山頂、その星型の窪みに

とろりと綺麗に溜まった瑠璃色のソース。

レインはそれを見た瞬間、商人の目を丸くして感嘆の声を上げた。





「おや……! これは驚いた。

プリンのてっぺんの星型に、あの青いソースを

こんなに美しく ぴったりと収めるなんて」


レインは待ちきれない様子でスプーンを取り、

プリンとソースを丁寧にすくって口に含む。

途端にその顔が至福の表情に変わり、

何度も深く頷いた。


「素晴らしいよ、サクヤ! ルリリンゴの強い甘みを、

プリンのまろやかさが完璧に引き立てている。

これなら誰もがこの幻の果実の虜になるはずだ」


「気に入ってもらえて良かったです」

朔夜はホッとしたように微笑み、

それから少し真剣な表情になって、本題を切り出した。


「実はレインさん。商人であるあなたに、

少し相談したいことがあるんです」





「相談? 僕にできることなら何でも言ってごらん」

「このソースを『期間限定メニュー』としてしっかり計画的に出したいんです。

この幻の果実を無駄なく、少しでも多くのお客さんに届けるために。

そのために、煮沸消毒をして長期保存ができるような、

密閉性の高い『耐熱のガラス容器』が欲しいんですが、この街にありますか?」


朔夜の現実的かつ具体的な問いに、

レインはスプーンを置き、少し顎に手を当てて考え込んだ。


「なるほど、期間限定のための保存と密閉か……。

確かに、魔導具の一種で、蓋を完全に気密できるガラス瓶はあるよ。

ただ、普段この街の市場には出回らない高級品だからね。

手配するとなると、取り寄せに七日ほどかかるけれど、いいかい?」





「七日ですか……」


朔夜は少し考えたが、妥協する気はなかった。


「もし、そのガラス瓶の現物が、今あなたの手元か

近くの荷馬車に一つでもあるなら、

まずはそれを一つ、僕に購入させてくれませんか?

実際に熱を入れて、密閉の度合いを確かめてから、

今後の数を正式に注文したいんです」


まずは現物を自分で試す。その職人としての徹底したこだわりに、

レインは一瞬呆気に取られた後、

実に見事なものを見た、とばかりに嬉しそうに破顔した。


「ははっ、本当に君は妥協がないね!

いいとも。取引先に見せるための見本がいくつか荷馬車にあるから、

明日、さっそくそのうちの一個を譲ってあげよう。

まずはそれを君の目で、厳しく見極めておくれ」

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