第七十話 商人の舌と職人のこだわり
スプーンですくい、クリーム色のプリンと
瑠璃色のソースを一緒に口へと運ぶ。
つるんとしたなめらかなのど越しと共に、
卵と牛乳の優しいコクが広がり、
すぐ後にルリリンゴの濃厚で上品な甘みが全体を包み込んだ。
ほんの少し加えたレモンの酸味が効いていて、
後味は驚くほど爽やかだ。
「……うん、美味い。これなら文句なしだ」
これなら男性客でも重すぎず、女性や子供には
星やハートの見た目でも楽しんでもらえる。
メニュー化を確信した朔夜だったが、すぐに売り出すことはせず、
まずはこの果実を届けてくれたレインに
一番に食べてもらおうと、彼の来店を待つことにした。
◆
その日の夜、閉店時間が近づき、
そろそろ看板を下ろそうかという頃。
カランカラン、と静かにドアベルが鳴り、
見慣れた旅の商人が姿を現した。
「やあサクヤ、今日も一日お疲れ様。
例の果実の調子はどうだい?」
「お待ちしてましたよ、レインさん。ちょうど良いところに」
朔夜は悪戯っぽく笑うと、カウンターの奥から
冷やしておいた試作のプリンを取り出し、レインの前に差し出した。
クリーム色のプリンの山頂、その星型の窪みに
とろりと綺麗に溜まった瑠璃色のソース。
レインはそれを見た瞬間、商人の目を丸くして感嘆の声を上げた。
◆
「おや……! これは驚いた。
プリンのてっぺんの星型に、あの青いソースを
こんなに美しく ぴったりと収めるなんて」
レインは待ちきれない様子でスプーンを取り、
プリンとソースを丁寧にすくって口に含む。
途端にその顔が至福の表情に変わり、
何度も深く頷いた。
「素晴らしいよ、サクヤ! ルリリンゴの強い甘みを、
プリンのまろやかさが完璧に引き立てている。
これなら誰もがこの幻の果実の虜になるはずだ」
「気に入ってもらえて良かったです」
朔夜はホッとしたように微笑み、
それから少し真剣な表情になって、本題を切り出した。
「実はレインさん。商人であるあなたに、
少し相談したいことがあるんです」
◆
「相談? 僕にできることなら何でも言ってごらん」
「このソースを『期間限定メニュー』としてしっかり計画的に出したいんです。
この幻の果実を無駄なく、少しでも多くのお客さんに届けるために。
そのために、煮沸消毒をして長期保存ができるような、
密閉性の高い『耐熱のガラス容器』が欲しいんですが、この街にありますか?」
朔夜の現実的かつ具体的な問いに、
レインはスプーンを置き、少し顎に手を当てて考え込んだ。
「なるほど、期間限定のための保存と密閉か……。
確かに、魔導具の一種で、蓋を完全に気密できるガラス瓶はあるよ。
ただ、普段この街の市場には出回らない高級品だからね。
手配するとなると、取り寄せに七日ほどかかるけれど、いいかい?」
◆
「七日ですか……」
朔夜は少し考えたが、妥協する気はなかった。
「もし、そのガラス瓶の現物が、今あなたの手元か
近くの荷馬車に一つでもあるなら、
まずはそれを一つ、僕に購入させてくれませんか?
実際に熱を入れて、密閉の度合いを確かめてから、
今後の数を正式に注文したいんです」
まずは現物を自分で試す。その職人としての徹底したこだわりに、
レインは一瞬呆気に取られた後、
実に見事なものを見た、とばかりに嬉しそうに破顔した。
「ははっ、本当に君は妥協がないね!
いいとも。取引先に見せるための見本がいくつか荷馬車にあるから、
明日、さっそくそのうちの一個を譲ってあげよう。
まずはそれを君の目で、厳しく見極めておくれ」




