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『潰れかけ喫茶店ごと異世界転移したので、黒猫と静かに営業していたら最強の休憩所になっていました』  作者: CASCADE


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第六十九話 瑠璃色の鍋と小さな相棒




静かな厨房に、コトコトと手鍋が軽やかに鳴る音が響く。

朔夜は細かく刻んだルリリンゴを鍋に入れ、

少量の水を加えて弱火でじっくりと煮詰めていた。

熱が通るにつれて、白い果肉からじわじわと

鮮やかな青い果汁が染み出してくる。

それはまるで、透明な水の中に瑠璃色のインクを

一滴ずつ落としていったかのような美しさだった。

鍋の中はみるみるうちに、魔法の薬か宝石の液体のように

神秘的な青色へと染まっていく。


カウンターの特等席では、クロノが身を乗り出し、

鍋から立ち上る上質で甘い湯気を

鼻をぴくぴくと小刻みに動かしながらじっと見つめていた。

その視線があまりにも熱烈で、今にも鍋に飛び込みそうなほど

真剣なことに気づき、朔夜は木べらを動かしながら苦笑する。





「クロノ、さっきからずっと見てるな。そんなに気になるか?」

「にゃあ」


クロノは「早く食べたい」とばかりに前足を揃えて座り直し、

金色の目をこれ以上ないほど輝かせて朔夜を見上げる。

完全にオヤツをおねだりする時のポーズだったが、

朔夜はあらかじめ取り分けておいた小さな皿を指差して、

優しく首を振った。


「気持ちは分かるが、お前、これは食べさせられないからな。

これから砂糖を足して、人間用のソースにするんだ。

いくら美味しくても、猫の体に良くないものは入れられない」

「……にゃ〜ん」


言葉が通じているクロノは、あからさまにがっかりしたように

声を漏らし、耳を少しだけ後ろに寝かせて不満をアピールする。





「だから、そう拗ねるな。

その代わり、味付けする前のやつをちゃんと端に置いといたろ?」


朔夜が笑いながら差し出した小皿の上には、

小さくサイコロ状にカットされた、生のままの青い果肉があった。

クロノはすぐに機嫌を直すと、嬉しそうに尻尾をピンと立てる。

小皿に顔を近づけ、前足で少し突っつくようにしてから、

シャキシャキと小気味よい音を立てて美味しそうに食べ始めた。


その満足そうな相棒の様子を見届けてから、

朔夜は再び手鍋へと意識を集中させた。


鍋の中に少量の砂糖と、ほんの少しのレモン汁を加える。

弱火のまま木べらで静かに円を描くように混ぜていくと、

ルリリンゴの甘みにレモンの爽やかな酸味が加わり、

さらに深みのある香りが厨房を満たしていった。

とろみがつくまで丁寧に煮詰め、火を止める。

完成したソースをスプーンですくい上げて光に透かすと、

それはまるでサファイアを溶かしたかのような、

透き通った美しい瑠璃色になっていた。





「よし、ソースはこれで完璧だ」


粗熱を取るために鍋を休ませている間に、

朔夜は冷やしておいたプリンを冷蔵庫から取り出した。

現代の減らない食材である卵と牛乳で作った、

優しい色合いをした、なめらかなクリーム色のプリンだ。


今回はいつものシンプルな丸い型だけでなく、

女性客や小さな子供が喜ぶようにと、

てっぺんに星やハートの形の窪みができる特製の型も使ってみた。

いよいよ、この試作品の仕上げに入る。


朔夜は試しに、星型の窪みがあるプリンを器へ盛り付け、

その頂上へ今作ったばかりの青いソースをそっと流し込んだ。


すると、窪みに瑠璃色のソースが溜まり、

クリーム色のプリンの真ん中にくっきりと青い星が浮かび上がる。

そこから溢れ出した鮮烈な青いソースが、

柔らかな斜面をゆっくりと伝い落ちていった。


「見た目は文句なしだな」


皿を少し揺らすと、プリンと一緒に青い星がきらきらと揺れる。

果肉を食べ終えたクロノが、今度はその完成品を不思議そうに見つめる中、

朔夜はスプーンを手に取り、いよいよ試食の準備を始めた。

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