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『潰れかけ喫茶店ごと異世界転移したので、黒猫と静かに営業していたら最強の休憩所になっていました』  作者: CASCADE


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第六十八話 守られた品質と青い閃き




レインが満足そうな笑顔で店を去った後、

黒猫亭の厨房で、朔夜はもらった果実を手に佇んでいた。

艶やかな赤と、切り口からのぞく神秘的な青。

この貴重な幻の果実を新鮮なうちにどう扱うか考えながら、

朔夜はそれを厨房の冷蔵庫へと仕舞い込む。


その時、ふと頭の隅である記憶が蘇った。


(そういえば……あいつが言っていたな)


この世界に転移してくる直前、

あの神様のような存在が告げた言葉。

『君には、“店を守る権限”を与える』


気にしたこともなかったが、よく考えてみれば

現代から店ごと持ってきた珈琲豆やココアの粉は、

毎日あれだけ消費しているはずなのに、

棚の袋を開ければ、いつも新品同様に満たされている。

劣化しないどころか、数さえも減らないのだ。





(なるほど……。建物や防犯だけじゃない。

店を守るってことは、元からある物の品質も数量も

完璧に守られているわけか)


だからこそ、朔夜はこの店で安心して珈琲を淹れ続けられる。

だが、この『守る権限』には明確なルールがあった。

異世界に来てから市場などで購入した食材は、

冷蔵庫に入れておけば「鮮度」こそ永遠に保たれるものの、

現代の食材とは違って、使ってしまえば確実に数は減るのだ。


つまり、今回レインが持ってきてくれた果実は、

この店において【数に限りがある本物の限定品】ということになる。


店で「期間限定メニュー」として出すにしても、

この有限な果実一つから、できるだけ沢山作れるものは何だろうか。


朔夜は腕を組み、カウンターの隅で

じっとこちらを見上げているクロノと視線を合わせた。





「クロノ、何がいいと思う?」

「にゃあ」


まず最初に頭に浮かんだのは、細かく刻んで煮詰める

ジャム(コンフィチュール)だった。

現実的に日持ちさせるなら、煮沸消毒したガラス瓶に入れ、

きっちり密閉して空気を減らすのが鉄則だ。


(そういえば、この世界にそこまで精密に

密閉できるようなガラスの瓶ってあったっけな……)


これまでの市場の様子を思い浮かべる。

素朴なガラス器や陶器の壺はあったが、現代のような

気密性の高いゴムパッキン付きの瓶などは見かけなかった。

今手元にある店用の空き瓶は「減らない現代の備品」だが、

もし今後、この世界の食材を本格的に加工して保存するなら、

容器の調達も考えなくてはならないだろう。





次にジュースも頭をよぎったが、すぐに首を振る。

絞って液体の飲み物にしてしまっては、

せっかくの瑞々しい果肉がもったいない。


では、スライスして敷き詰めるタルトやパイはどうか。

しかし、それも少し考えて思い直す。

うちの店にはガルドのような衛兵や男性客も多い。

バターたっぷりのどっしりしたタルトは、

彼らにとっては少々重すぎるかもしれない。


「……なら、ベースはあっさりしたものにするか」


つるんとのど越しの良い、甘さ控えめのプリン。

そこへ、あのルリリンゴで作った鮮やかな青いソースを添える。

ベースのプリンは店の卵や牛乳で作れるし、

ソースも数日分を小分けにして出すだけなら、

今ある店の容器で十分に事足りる。





食べたい人が、貴重な青いソースを自分でかけるスタイルなら、

果実を無駄なく大勢に楽しんでもらえる。

それなら甘さの調節も自分でできるし、

なにより真っ白なプリンの上に

透明感のある青いソースがとろりとかかる光景は、

見た目にも絶対に美しいはずだ。


「よし。あれこれ考えてても始まらないし、

とりあえずまずは一度、作ってみるか」

「にゃお」


方針が決まると、朔夜はさっそくエプロンの紐を締め直し、

冷蔵庫からルリリンゴを取り出した。

トントンと小気味よい音を立てて果実を刻み、

小さな手鍋に入れて弱火にかける。


火が通るにつれて、厨房には上質で濃厚な甘い香りが広がり、

鍋の中は神秘的な瑠璃色へと染まっていく。

特等席で見つめるクロノの鼻が、

その良い香りに惹かれてぴくぴくと動いていた。

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