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『潰れかけ喫茶店ごと異世界転移したので、黒猫と静かに営業していたら最強の休憩所になっていました』  作者: CASCADE


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第六十七話 赤と青の果実




レインが淹れたてのブレンド珈琲をゆっくりと味わい、

ふぅ、と満足そうに息を吐き出した頃。

カウンターの上では、オヤツを堪能したクロノが

すっかり満足して、前足に顎を乗せてくつろいでいた。


朔夜は手元を片付けながら、

ふと思い出したようにレインへ声をかける。


「そういえばレインさん、さっき言っていた

『面白い果実』って、どんなものなんですか?」

「お、興味を持ってくれたかい?」


レインは待ってましたとばかりに嬉しそうに目を輝かせ、

足元に置いていた大きな鞄から、

ごそごそと布に包まれた丸いものを取り出した。


「これさ。市場の珍品売りが少しだけ持ち込んでいてね。

朝早くから市場に行った甲斐があったよ」





レインが丁寧に布を広げると、

中から現れたのは、片手に収まるほどの丸い果実だった。

瑞々しく艶やかな外皮は、どこからどう見ても、

日本の市場で見かけるような、実によく熟れた「赤いリンゴ」だ。


「見た目は普通の林檎に見えますが……」

「ふふ、そう思うだろう? サクヤ、ナイフを貸してごらん」


朔夜が手渡した小さなペティナイフを受け取り、

レインは慣れた手つきで果実を真っ二つに切り分けた。


サクッ、と小気味よい音が響く。

切り開かれたその瞬間、朔夜は思わず目を丸くした。


「……え?」


真っ赤な皮の内側に隠れていたのは、

透き通るような、目が覚めるほど鮮やかな「青色」の果肉だった。

まるで澄んだ南国の海か、あるいは瑠璃石を思わせるような

美しい青が、部屋の光を反射してきらきらと輝いている。





「にゃあ?」


カウンターの端で寝そべっていたクロノも、

その異様な色に気づいたのか、むくりと起き上がった。

トントンと足音を立てて近寄ると、

金色の目を丸くして、青い果肉を不思議そうに覗き込んでいる。


「驚いたかい? 僕も実物を見るのは初めてでね。

はるか遠くの未開の山奥にしか実らないらしくて、

この街の市場にはまず出回らない幻の果実なんだ。

旅の商人がたまたま持ち込んだのを、運良く買い占められてね」


レインは一切れを小さく切り分け、朔夜に差し出した。


「この色だからね、さぞ酸っぱくて冷涼な味がすると思うだろう?

まぁ、食べてみてよ」


朔夜は少しだけ躊躇しながらも、

青い果肉を一切れ、口へと運んだ。

シャキッとした心地よい歯ごたえの直後、

溢れ出した果汁が口いっぱいに広がる。





「……! ものすごく、甘いですね」


青い見た目から想像していた酸味はほとんどなく、

まるで上質な蜜をそのまま閉じ込めたかのような、

濃厚で上品な甘みが口の中を満たしていく。

後味は驚くほど爽やかで、品のある香りが鼻へ抜けた。


「だろう? このギャップがたまらなくてね。

サクヤなら、これで面白いお菓子を作れるんじゃないかと思って、

少しお裾分けを持ってきたんだ」


レインはそう言って、残りの果実を布ごと朔夜へ差し出した。


「ありがとうございます。これは創作意欲が湧きますね……。

この青さを活かした、面白い焼き菓子を考えてみます」


朔夜は青い果肉を見つめながら、静かに目を輝かせた。

その隣で、クロノも「自分も食べたい」とばかりに、

一切れの果肉をじっと見つめ続けていた。

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