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『潰れかけ喫茶店ごと異世界転移したので、黒猫と静かに営業していたら最強の休憩所になっていました』  作者: CASCADE


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第六十六話 商人の手土産と黒猫の特権




ガルドが去った後、黒猫亭のカウンターには

静かな時間が戻っていた。

クロノはガルドからもらった干し肉を

嬉しそうに小さく噛みしめ、

満足そうに毛づくろいを始めている。


カラン。

お昼前、穏やかに鈴が鳴った。

入ってきたのは、肩に大きな鞄をかけたレインだった。


「やあ、サクヤ。今日もいい天気だね」

「いらっしゃいませ、レインさん。

今日はお仕事の合間ですか?」

「ああ、ちょっとそこの市場で

面白い果物を仕入れてね。その帰りに寄らせてもらったよ」


レインはカウンターの席に腰を下ろし、

ふと、その上で上機嫌に尻尾を揺らしている

クロノの姿に目を留めた。





「おや、クロノ。なんだか今日は

いつも以上に機嫌が良さそうだね」


レインが不思議そうに尋ねると、

朔夜は磨いていたグラスを棚に戻しながら答えた。


「今朝、ガルドさんの落とし物を見つけてあげて、

そのご褒美に干し肉をもらったんですよ」

「へえ、それはすごいな! 本当にお利口な猫だ」


レインは感心したように目を細め、

それから自分の鞄の中に手を入れ、

小さな紙包みをそっと取り出した。


「実はね、さっき市場で干し魚の良さそうなやつを

手に入れたんだ。塩気のない、自然な作りのやつをね。

……なぁサクヤ、クロノに少しオヤツをやってもいいのかい?」


レインは少し遠慮がちに、朔夜の顔を覗き込む。

よその飼い猫に勝手に食べ物を与えるのは

良くない、という商人らしい気遣いからだった。





朔夜はレインが持っている紙包みをちらりと見て、

それから少し呆れたようにクロノを見た。

クロノは「オヤツ」という言葉に反応したのか、

すでにレインの前に座り直し、

金色の目をこれ以上ないほど輝かせている。


「まあ、猫が食べられるものならいいですよ。

あまり与えすぎると、太りそうですが」

「はは、ありがとう。じゃあ、ほんの少しだけね」


レインは嬉しそうに笑い、紙包みから

小さくちぎった干し魚をカウンターに置いた。


「はい、どうぞ。お利口なクロノ」

「にゃあ!」


クロノは短く嬉しそうな声を上げると、

さっそく差し出された干し魚を咥え、

実においしそうに食べ始めた。





「気に入ってくれたみたいで良かったよ」


レインはその姿を満足そうに眺めてから、

「いつものブレンドをお願いできるかい?」と注文した。


「かしこまりました」


朔夜は手際よく珈琲を淹れ始める。

香ばしい薫りがカウンターを包み込む中、

レインは贅沢なオヤツタイムを満喫する黒猫を

優しく見守っていた。


「ガルドにレインさんか……。

このままだと、こいつがこの店で一番の

美食家になってしまいそうですね」


朔夜が静かに珈琲を差し出すと、

レインは「それもこの店の特権さ」と

嬉しそうにカップを手に取った。


お昼前の光が差し込む黒猫亭で、

二人の穏やかな笑い声と、

クロノが喉を鳴らす幸せそうな音が、

静かに溶け合っていた。

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