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『潰れかけ喫茶店ごと異世界転移したので、黒猫と静かに営業していたら最強の休憩所になっていました』  作者: CASCADE


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第六十五話 慌ただしい朝の落とし物




開店して間もない、午前中の爽やかな光が

黒猫亭の店内に満ちていた。

朔夜が入り口のガラス戸を綺麗に拭き終え、

カウンターの中で朝の珈琲を一口すする。

その傍らでは、クロノが気持ちよさそうに

朝の日差しを浴びて、前足を毛づくろいしていた。


カランカラン!

いつもより少し勢いよく、扉の鈴が鳴る。


「サクヤ! すまねえ、ちょっと聞きたいんだが!」


入ってきたのは、いつもと違って

少し慌てた様子を見せるガルドだった。

これから任務なのか、しっかりと鎧を着込んでいるが、

昨日羽織っていたマントは手に持ったままだ。


「いらっしゃいませ、ガルドさん。どうしたんですか?」

「いやな、昨日ここに寄った後、

マントの重要な留め具がなくなってるのに気づいてな。

仕事に行く前に、駄目元で探しに来たんだ」


ガルドは眉をひそめ、自分が座っていた

カウンターの椅子の周りをキョロキョロと見回す。





朔夜は小さく息を吐き、カウンターの隅から

昨夜クロノが見つけた鈍い銀色の留め具をすっと差し出した。


「これですか?」

「お、おお! それだ! あったのか!」


ガルドの顔が、一瞬でパッと明るくなった。

大きな手で大切そうに留め具を受け取り、

何度も何度も確かめるように眺めている。


「助かったぜ、これがないとマントが固定できなくて

今日の任務で困るところだったんだ。

よく見つけてくれたな、サクヤ」

「俺が見つけたわけじゃないですよ」


朔夜が視線を向けると、カウンターの上で

クロノがぴんと尻尾を立てて、

「ふふん」と胸を張るように喉を鳴らした。


「にゃあ」





「……まさか、クロノが見つけたのか?」


ガルドが目を丸くすると、朔夜は淡々と頷いた。


「ええ。昨夜、店を閉めた後に

椅子の隙間に落ちていたのを、こいつが教えてくれたんです」

「そうだったのか……!」


ガルドは身をかがめ、カウンターの上のクロノと

視線を合わせると、相好を崩した。


「ありがとな、クロノ。お前は本当に賢い猫だ」


無骨な手で、クロノの首のあたりを

いつもより優しく、念入りに撫でてやる。

クロノは気持ちよさそうに目を細め、

ゴロゴロと嬉しそうに音を響かせていた。


「これ、少ないが手柄の褒美だ」


ガルドは懐から、街の市場で買ったという

干し肉の小袋を取り出し、カウンターへ置いた。

そして急いでマントに留め具を取り付けると、

すっきりとした笑顔で立ち上がる。





「よし、これで完璧だ。恩に着るぜ!」


ガルドはマントを翻し、

今度はいつもの力強い足取りで店を出て行った。

カラン、と小気味よく鈴が鳴り、

再び黒猫亭に穏やかな朝の静けさが戻る。


朔夜は、ガルドが置いていった干し肉の袋を見つめ、

それから相棒の黒猫を見た。


「よかったな、クロノ。お手柄だ」

「にゃお」


クロノは誇らしげに鳴き、

さっそく袋の匂いをくんくんと嗅ぎ始める。

慌ただしい朝のご褒美を前にした黒猫を眺めながら、

朔夜はまた、静かに自分の珈琲に口をつけた。

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