↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『潰れかけ喫茶店ごと異世界転移したので、黒猫と静かに営業していたら最強の休憩所になっていました』  作者: CASCADE


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
65/176

第六十五話 慌ただしい朝の落とし物




開店して間もない、午前中の爽やかな光が

黒猫亭の店内に満ちていた。

朔夜が入り口のガラス戸を綺麗に拭き終え、

カウンターの中で朝の珈琲を一口すする。

その傍らでは、クロノが気持ちよさそうに

朝の日差しを浴びて、前足を毛づくろいしていた。


カランカラン!

いつもより少し勢いよく、扉の鈴が鳴る。


「サクヤ! すまねえ、ちょっと聞きたいんだが!」


入ってきたのは、いつもと違って

少し慌てた様子を見せるガルドだった。

これから任務なのか、しっかりと鎧を着込んでいるが、

昨日羽織っていたマントは手に持ったままだ。


「いらっしゃいませ、ガルドさん。どうしたんですか?」

「いやな、昨日ここに寄った後、

マントの重要な留め具がなくなってるのに気づいてな。

仕事に行く前に、駄目元で探しに来たんだ」


ガルドは眉をひそめ、自分が座っていた

カウンターの椅子の周りをキョロキョロと見回す。



◆



朔夜は小さく息を吐き、カウンターの隅から

昨夜クロノが見つけた鈍い銀色の留め具をすっと差し出した。


「これですか?」

「お、おお! それだ! あったのか!」


ガルドの顔が、一瞬でパッと明るくなった。

大きな手で大切そうに留め具を受け取り、

何度も何度も確かめるように眺めている。


「助かったぜ、これがないとマントが固定できなくて

今日の任務で困るところだったんだ。

よく見つけてくれたな、サクヤ」

「俺が見つけたわけじゃないですよ」


朔夜が視線を向けると、カウンターの上で

クロノがぴんと尻尾を立てて、

「ふふん」と胸を張るように喉を鳴らした。


「にゃあ」



◆



「……まさか、クロノが見つけたのか?」


ガルドが目を丸くすると、朔夜は淡々と頷いた。


「ええ。昨夜、店を閉めた後に

椅子の隙間に落ちていたのを、こいつが教えてくれたんです」

「そうだったのか……!」


ガルドは身をかがめ、カウンターの上のクロノと

視線を合わせると、相好を崩した。


「ありがとな、クロノ。お前は本当に賢い猫だ」


無骨な手で、クロノの首のあたりを

いつもより優しく、念入りに撫でてやる。

クロノは気持ちよさそうに目を細め、

ゴロゴロと嬉しそうに音を響かせていた。


「これ、少ないが手柄の褒美だ」


ガルドは懐から、街の市場で買ったという

干し肉の小袋を取り出し、カウンターへ置いた。

そして急いでマントに留め具を取り付けると、

すっきりとした笑顔で立ち上がる。



◆



「よし、これで完璧だ。恩に着るぜ!」


ガルドはマントを翻し、

今度はいつもの力強い足取りで店を出て行った。

カラン、と小気味よく鈴が鳴り、

再び黒猫亭に穏やかな朝の静けさが戻る。


朔夜は、ガルドが置いていった干し肉の袋を見つめ、

それから相棒の黒猫を見た。


「よかったな、クロノ。お手柄だ」

「にゃお」


クロノは誇らしげに鳴き、

さっそく袋の匂いをくんくんと嗅ぎ始める。

慌ただしい朝のご褒美を前にした黒猫を眺めながら、

朔夜はまた、静かに自分の珈琲に口をつけた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。