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『潰れかけ喫茶店ごと異世界転移したので、黒猫と静かに営業していたら最強の休憩所になっていました』  作者: CASCADE


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第六十一話 雨上がりの陽だまり




午後を回ると、分厚い雨雲の隙間から

まぶしい光が差し込んできた。

濡れた石畳が光を反射してきらきらと輝き、

冷えていた空気も、少しずつ温かさを取り戻していく。


先ほどの雨が嘘のように、

外の通りには買い物帰りの人々が溢れ始めていた。


「にゃあ」


クロノはカウンターの上から窓辺へと移動し、

差し込む日差しを浴びながら、

気持ちよさそうに伸びをしている。


カラン。

涼やかな鈴の音が響く。

入ってきたのは、常連のガルドだった。

その背中には、昨日までの遠出の疲れが

ほんのりと残っているように見えた。


「いらっしゃいませ、ガルドさん」

「おう。急な雨に降られてな、やっと上がったところだ」


ガルドはカウンターのいつもの席に座り、

軽く首を回してコリをほぐした。


「いつもの、少し濃いめで頼む」

「かしこまりました」





朔夜は手際よく豆を挽き、

いつものように静かにお湯を注ぐ。

コーヒーの深い香りが漂い出すと、

ガルドの表情がわずかに和らいだ。


「そういや店主、さっき市場の入り口で、

薄茶色の髪の女が嬉しそうに歩いてるのを見かけてな」

「薄茶色の……」

「ああ。『黒猫のいる店で、見たこともない

温かくて甘い飲みものを飲んだ』って、

知り合いに熱心に話してたぞ」


ガルドは面白そうに鼻で笑いながら、

差し出されたブレンドコーヒーを一口すすった。


「その様子じゃ、今日も誰かの心を

温めてやったみたいだな」

「普通のココアを淹れただけですよ。

雨でかなり冷え切っていらっしゃいましたから」


朔夜が平然と答えると、

ガルドは「お前はいつもそれだな」と肩をすくめた。





その時、窓辺で日向ぼっこをしていたクロノが、

トントンと軽い足取りでカウンターを歩いてきた。

そして、ガルドの肘のすぐ横で、

まるで話に加わるようにちょこんと座り込む。


「なんだ、クロノ。お前もあの嬢ちゃんを

温めるのを手伝ったのか?」


ガルドがからかうように手を伸ばし、

クロノの耳の後ろをそっと撫でる。

クロノは目を細め、静かに「にゃ」と鳴いて

ガルドの手のひらに頭を擦りつけた。


「はは、お前もいい仕事を下ってわけだ」


ガルドの無骨な手が、クロノの小さな温もりに

触れることで、さらに穏やかになっていく。

旅の疲れを癒やすブレンドコーヒーと、

気まぐれな黒猫の寄り添い。


雨が上がったばかりの黒猫亭には、

いつもと変わらない、静かで優しい

平穏な時間が流れていた。





ガルドがゆっくりとカップを干し、

ふう、と満足気なため息をついた。


「よし、これで明日からの仕事も

なんとかなりそうだ」

「それは良かったです」


ガルドは代金をカウンターに置くと、

「また来る」と言って、晴れ渡った街へと

力強い足取りで戻っていった。


カラン、と鈴が鳴り、静寂が戻る。

朔夜は空になったカップを片付けながら、

カウンターの上で再び丸くなったクロノを見つめた。


「クロノ、お疲れ様」

「にゃ」


黒猫亭の穏やかな午後は、

雨上がりの光に包まれて、静かに更けていく。

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