第六話 見知らぬ夜
遠吠えが、夜の闇へ響いていた。
「…………」
朔夜は入口の方を見る。
聞いたことのない鳴き声だった。
犬とも違う。
狼に近い気がする。
けれど、日本で聞くような音ではなかった。
「……いや、まさか」
嫌な予感を覚えながら、朔夜はゆっくり入口へ近付く。
クロノも無言で後をついてきた。
カラン。
扉を開けた瞬間。
「…………は?」
言葉を失った。
そこにあったのは、見慣れた街並みではない。
石畳の道。
薄暗い街灯。
遠くに見える、巨大な城壁。
そして。
道の端を歩いていた、“獣耳の生えた人間”。
「え」
朔夜の思考が止まる。
獣人。
いや、待て。
コスプレではない。
耳が動いている。
尻尾も揺れている。
「……異世界だこれ」
今さらながら実感が湧いた。
冷たい夜風が吹き込む。
空を見上げると、月が二つ浮かんでいた。
「本当に来たのか……」
呆然と呟いた時。
ぐぅぅ……。
腹が鳴った。
「…………」
「にゃ」
クロノが呆れたように鳴く。
「いや、仕方ないだろ……」
さっきから情報量が多すぎる。
精神的には限界だ。
その時だった。
ふらり、と。
通りの奥から、一人の男が歩いてくる。
ボロボロのマント。
汚れた革鎧。
足取りは重く、今にも倒れそうだった。
そして男は、黒猫亭の灯りを見た瞬間。
縋るような目をした。
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