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『潰れかけ喫茶店ごと異世界転移したので、黒猫と静かに営業していたら最強の休憩所になっていました』  作者: CASCADE


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第四十七話 新しい甘さ

定休日の翌日。

   黒猫亭には、またいつもの朝が戻っていた。

   看板を表へ返し、窓を開ける。

   冷たい空気が静かに流れ込み、店の中に残っていた甘い匂いを少しだけ薄めていく。

   朔夜は棚を整えながら、小さく息を吐いた。


  「……まあ、悪くなかったな」

   休みを取ったこと。

   試作品を作ったこと。

   どちらも、思っていたより悪くない。

     カウンターの奥には、昨日焼いたものが並んでいた。

     小さく切り分けた焼き菓子。

     以前より軽く、甘さも控えめに調整してある。

     まだ完成とは言えない。

     だが、店に出せないほどでもなかった。


    「にゃ」

     クロノがカウンターへ飛び乗る。

     焼き菓子の匂いを少し嗅ぎ、それ以上興味を示さず丸くなった。


    「お前、ほんと甘いもの興味ないな」

     朔夜は苦笑しながら準備を続ける。

     やがて、店の中にいつものコーヒーの香りが広がり始めた。

     

     カラン。

     昼前、最初の客が入ってくる。

     ガルドだった。

     慣れた様子でカウンターへ座る。


    「昨日閉まってたな」

     朔夜はカップを準備しながら頷く。

    「休みにしてました」

    「店にも休みは必要か」

    「みたいです」

     短いやり取り。

     ガルドはふとカウンターの奥を見る。

    「……なんか増えてないか?」

     視線の先には、昨日作った焼き菓子。

     朔夜は一瞬だけそちらを見る。

    「試作品です」

    「また何か作ってたのか」

     朔夜はコーヒーを置きながら言った。

    「少し、飲み物に合わせるものを増やそうかと」


     ガルドは小さく笑う。

    「店らしくなってきたな」

     朔夜は何も答えない。

     ただ、小皿へ焼き菓子を一つ乗せた。

    「試しでよければ」

     ガルドは眉を上げる。

    「珍しいな。お前から出すの」

    「感想が欲しいので」

     それだけだった。

     ガルドは焼き菓子を一口かじる。

     数秒だけ咀嚼し、それからコーヒーを飲んだ。


    「……なるほど」

     朔夜は黙って続きを待つ。

     ガルドはもう一口食べてから言った。

    「前より軽いな。こっちの方が飲み物には合う」


     朔夜の手がわずかに止まる。

     昨日、自分で感じたことと同じだった。

    「ただ、もう少し香りがあってもいいかもな」

    「香りですか」

    「食ったあと、コーヒーに戻る感じは悪くない」

     朔夜は小さく頷く。

    「……なるほど」


     クロノがそのタイミングで小さく鳴いた。

    「にゃ」


     ガルドは笑う。

    「そいつも納得したんじゃないか?」

    「多分違います」

     珍しく即答だった。

     ガルドが少し吹き出す。

     店の中に、いつもの静かな空気が戻っていく。

     だが昨日までとは少し違う。

     黒猫亭は少しずつ、

“飲み物を出すだけの店”ではなくなり始めていた。

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