第二十六話 温度の違う時間
カウンターの向こうで、若い冒険者は落ち着かない様子で座っていた。
視線は店内を何度か行き来している。
警戒というより、“慣れていない場所”への戸惑いに近い。
「……意外と普通だな」
ぽつりと漏れた言葉。
朔夜は豆を挽きながら、それに軽く視線だけ向ける。
「普通の喫茶店ですから」
それだけ。
冒険者は少しだけ肩の力を抜いた。
「さっきの店とは違う感じがしたからよ」
さっきの店。
その言葉に、朔夜の手が一瞬だけ止まる。
だがすぐに、また動き出す。
「うちは、ここだけです」
静かな返答。
冒険者はそれ以上は聞かなかった。
ただ、出された飲み物を見て少しだけ目を細める。
湯気。
香り。
それを見てから、ゆっくりと一口飲む。
沈黙。
そして小さく息を吐く。
「……ああ、これなら分かる」
その言葉は、理解というより“納得”に近かった。
朔夜は拭き作業に戻る。
同じ店内。
同じ時間。
それでも、さっきの客とはまったく違う空気が流れている。
「にゃ」
クロノがカウンターの上で伸びをする。
その動きは、どこか確かめるようだった。
人は来る。
だが、同じ形では来ない。
黒猫亭は少しずつ、“重なり方の違う時間”を
受け入れ始めていた。
感想、コメントお待ちしております(*..)”




