第百八十話 冒険者の朝食と、予期せぬ知らせ
「おうサクヤ! 今日もいつもの『朝の特製スープセット』を頼むぜ! 朝稽古の後はこれに限るからな!」
ガルドが満足そうにカウンターの丸椅子に腰を下ろすと、香ばしい焼き立てパンと湯気立つスープの匂いが店内を満たしていった。
「はい、お待たせいたしました。ガルドさん、自家製ソーセージとたっぷり野菜のポトフです」
「くぅ〜っ、このスープのコクが五臓六腑に染み渡るぜ……!」
豪快にスプーンを動かすガルドの横で、クロノがカウンターからひょっこり顔を出し、羨ましそうにスープの湯気を見つめている。
「クロノ、お前の分は後でちゃんと用意してやるからな」
「みぁ〜ん」
朔夜が優しく頭を撫でると、クロノは納得したように喉を鳴らし、朔夜の足元へ擦り寄った。
◆
和やかな朝の風景が広がっていたその時、カランコロンとドアベルが鳴り、息を切らした少年が飛び込んできた。ギルドの見習い連絡員だ。
「サクヤさん! ガルドさんもここにいましたか! ギルド支部から急報です!」
「ん? なんだなんだ、朝っぱらから騒々しいな。王都からまた誰か来たのか?」
ガルドがスプーンを止め、怪訝そうに首を傾げる。少年は大きく息を整えると、真剣な表情で言葉を続けた。
「いえ……! 『天空都市ルフェリア』との連絡路の周辺で、一時的な空間の『小規模な揺らぎ』が検知されたんです。実害はないそうですが、王都の魔導院から『黒猫亭の羅針盤の状況を確認してほしい』と要請が……!」
◆
少年の一言に、店内の空気がピンと張り詰めた。
朔夜は反射的に、カウンターの片隅で静かに佇む真鍮の羅針盤へと視線を向けた。
針は狂うことなく落ち着いた輝きを放っているが、以前のような危険な異常事態というよりは、新しい世界の接続に伴う「潮の満ち引き」のような変化を感じさせる。
「大丈夫……羅針盤は落ち着いています。でも、確認はしておいた方が良さそうですね」
「ふにゃ〜っ!」
クロノが朔夜の意図を汲み取るようにポンと前足でカウンターを叩き、凛とした顔つきで見つめ返してくる。
「よし、俺も付き合うぜ。サクヤの店に何かあったら一大事だからな!」
両親から受け継いだ店と、新しく広がった異世界との絆。
さらなる深い物語の展開に向けて、朔夜とクロノ、そして仲間たちの足並みが再び揃うのだった。




