第百七十九話 新しい看板と、さわやかな朝風
朝陽が優しく街を照らし始める頃、朔夜は完成したばかりの木製看板を手に、お店の外へと出た。
出来立ての看板には、両親譲りのあたたかみのある文字で『黒猫亭――あらゆる世界の旅人に、温かな一皿を』と刻まれている。その横には、ちょこんと座る黒猫のシルエットも丁寧に彫り込まれていた。
「よし……高さはこのくらいでいいかな。クロノ、少し離れて見てくれるか?」
「みぁ〜っ!」
クロノはトコトコと通りまで走り出ると、首をかしげながら看板と朔夜を交互に見比べた。
「ふにゃ〜ん!」
「うん、ぴったりみたいだな。ありがとう、クロノ」
エントランスの木枠にしっかりと看板を固定すると、まるで新しい息吹が店全体に吹き込まれたかのような、清々しい心地よさが広がった。
◆
「おはよう、サクヤ! おや、朝早くから何をして……おおっ、素晴らしい看板じゃないか!」
朝の鍛錬を終えたばかりのガルドが、大槌を担ぎながら通りを歩いてきた。看板の文字を目にすると、感心したように太い首を縦に振る。
「サクヤの手彫りか? すごく温かみがあって、この店にぴったりだぜ!」
「ありがとうございます、ガルドさん。両親が昔遺してくれた木材を使って作ってみたんです」
「そうか……ご両親もきっと天国で喜んでるぜ。『いい店になったな』ってな!」
豪快に笑いながら肩を叩くガルドに、朔夜は照れくさそうに微笑んだ。
◆
仕込みの湯気が煙突から空へと立ち上り、開店の時間を告げる。
カランコロン――。
新しく掛けられた看板の下をくぐり、今日の一番客が足を踏み入れてくる。
「いらっしゃいませ! 黒猫亭へようこそ!」
朔夜の朗らかな声と、クロノの元気な「みぁ〜っ!」という歓待の鳴き声が店内に響き渡る。
新しく掲げられた言葉の通り、あらゆる世界から訪れる旅人たちを包み込む、黒猫亭のあたたかな一日が今日もおだやかに始まっていくのだった。




