第百七十七話 静かな夜と、相棒の特等席
すべて片付けを終えた厨房に、カチコチと小さな時計の針の音だけが響いていた。
朔夜は自分の分と、ほんの少しぬるめにしたクロノ用のスープを準備し、カウンターの端に腰を下ろした。
「クロノ、夜のご飯にしようか」
「みぁ〜っ!」
待ってましたとばかりに、クロノは軽やかな身のこなしでカウンターへ飛び乗り、自分の小皿へまっしぐらに顔を寄せた。
ハフハフと美味しそうにスープを味わう相棒の姿を、朔夜はあたたかな眼差しで見つめる。
「今日のお客さんたち、すごく笑顔で帰ってくれたな。シルフィさんたちも、天空都市で黒猫亭のことを話してくれるって言ってたし……また新しい出会いが増えそうだ」
◆
「ふにゃ〜ん」
お腹がいっぱいになったクロノは、満足そうに口元を毛づくろいすると、そのまま朔夜の膝の上へと飛び移ってきた。
くるりと一回りして丸くなり、ふかふかの尻尾を体に巻きつける。
「ふふ、ここが一番落ち着くのか?」
「みぁ〜……」
返事の代わりに、小さな呼吸とともに「ゴロゴロ」と心地よい小さな振動が朔夜の膝から伝わってきた。
朔夜はそっとクロノの背中に手を置き、柔らかい毛並みを撫で上げた。
◆
両親が亡くなり、この店を一人で受け継いだばかりの頃は、ただがむしゃらに不安と戦う毎日だった。
けれど、いつの間にか横にはクロノがいて、温かな常連客たちがいて、そして今や異世界の人々までもがこの場所を愛してくれている。
(父さん、母さん……僕、この店を守れてるよね)
窓の外を見上げれば、満天の星空が広がっている。
膝の上の愛おしい重みを感じながら、朔夜は静かに目を閉じ、明日訪れるであろう新しい笑顔に思いを馳せるのだった。




