第百七十六話 宵の口の約束と、灯るあかり
宴のような賑やかな時間が過ぎ、窓の外が綺麗な茜色から深い群青色へと染まっていく。
「はぁ〜、食べた食べた! サクヤの料理と美味い酒、それに天空都市の話まで聞けて、最高の1日だったぜ!」
ガルドが満足そうにお腹を叩きながら立ち上がる。シルフィたち天空都市の客人も、名残惜しそうに荷物をまとめた。
「サクヤ様、素晴らしいおもてなしを本当にありがとうございました。街へ戻ったら、職場の仲間や家族にも『黒猫亭』のことをたくさん話しますね」
「ありがとうございます、シルフィさん。いつでもお腹を空かせて戻ってきてくださいね。気をつけておかえりください」
朔夜が丁寧に一礼して見送ると、シルフィたちはカランコロンと鈴の音を響かせ、雲の上の扉の向こうへと帰っていった。
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客が去り、静けさを取り戻した店内。
朔夜がカウンターに散らばったお皿を下げていると、クロノがトコトコと寄ってきて、すり寄るように脚に頭を擦り付けてきた。
「クロノ、今日も一日お疲れ様。お手伝い助かったよ」
「みぁ〜ん」
朔夜は腰を落とし、クロノの首元を優しく撫でてやる。クロノは目を細め、喉を「ゴロゴロ……」と鳴らして気持ち良さそうに身を委ねた。
「父さんと母さんが作ろうとしていたお店……少しずつ形になってきた気がするな」
「ふにゃ〜っ」
「これからも色んな世界の人が来ると思うけど、一緒に美味しいものを作って迎えような」
◆
カウンターの片隅に置かれた真鍮の羅針盤が、夜の静寂のなかで微かに優しい光を放っている。
かつては次元の歪みを抑えるための重い「錨」だったその場所は、今やあらゆる世界の人々が立ち寄り、笑顔を取り戻すためのあたたかな「道標」となっていた。
夜の帳が降りる中、黒猫亭の温かなあかりは、迷える旅人たちを導くように今夜も静かに灯り続けるのだった。




