第百七十四話 羽休めのパイと、広がる笑顔
「わぁ……本当に雲の上の世界から来られたのね! 羽がとっても綺麗だわ」
セレスが目を輝かせると、訪れた女性――天空都市の仕立て屋・シルフィは照れくさそうに羽を少しすぼめた。
「アルテ様から『黒猫亭の料理を食べると、長旅の疲れも一瞬で吹き飛ぶ』とお聞きしまして……半信半疑でお邪魔したのですが、お店に入った瞬間からすごく良い匂いがして感動しています」
「ははっ! アルテの奴、すっかりサクヤのメシの虜になっちまったんだな!」
ガルドが豪快に笑い、隣の席へ案内するように手招きする。
「どうぞ、こちらの席へ。お荷物もこちらに置いてくださいね」
レインがさりげなく荷物置きの籠を差し出し、店全体が温かく新たな客人を迎え入れていた。
◆
「よし、クロノ。天空都市のみなさんには、焼き立てのアップルパイと特製のハーブティーを出そうと思うんだけど、どうかな?」
「みぁ〜っ!」
クロノが「絶対喜ぶニャ!」と誇らしげに鼻を鳴らす。
朔夜は手際よくオーブンから天板を取り出した。
こんがりときつね色に焼き上がったサクサクのパイ生地からは、甘酸っぱいリンゴとバターの芳醇な香りが立ち上っている。
綺麗に切り分けたパイにバニラアイスを添え、自家製ミントを添えてテーブルへと運んだ。
「お待たせいたしました。『焼きたてアップルパイのバニラアイス添え』と『爽やかハーブティー』です」
◆
「まあ……! なんて可愛らしくて美味しそうなんでしょう……!」
シルフィがフォークを入れると、サクッと心地よい音が響いた。
熱々のリンゴとひんやり冷たいアイスを一緒に口へ運ぶと、シルフィと連れの男性は一瞬で幸せそうな表情を浮かべた。
「おいしい……! パイ生地がサクサクで、リンゴの甘みが体にじーんと染みわたります……!」
「アルテ様が夢中になる理由がわかりました。長旅で冷え切っていた体と心が、すーっと温かくなっていくようです……」
「ふふ、お口に合って良かったです」
朔夜はほっと胸を撫で下ろし、カウンター越しに微笑んだ。
◆
「みぁ〜ん」
クロノがシルフィの足元へ歩み寄り、すりすりと甘えるように体を擦り寄せる。
「まあ、黒猫ちゃんまで歓迎してくれるのね。ふふ、ありがとう」
シルフィが優しくクロノの頭を撫でると、店内はより一層和やかな空気に包まれた。
旧知の常連客と、異世界からの新たな訪れ。
二つの異なる世界の笑顔が重なり合い、黒猫亭は世界を繋ぐ真の「憩いの場」として、最高潮の温もりを創り出していくのだった。




