第百七十二話 結ばれる世界と、語られる使命
「……はぁ、美味しかった……。こんなに心が満たされるお料理をいただいたのは、生まれて初めてです」
お皿を綺麗に空にしたアルテは、深く満ち足りた吐息をつき、姿勢を正して朔夜に向き直った。
「改めまして、お礼を申し上げます。サクヤ殿。……実は我々ルフェリアの民は、長年『次元のゆがみ』による孤立に悩まされておりました」
「孤立、ですか……?」
朔夜が温かいお茶を差し出すと、アルテは両手で大切そうにカップを包み込みながら頷いた。
◆
「はい。我々の世界は空に浮かぶ都市ゆえ、他の世界との交流が途絶えると、魔力の循環が滞ってしまうのです。……ですが先日、突然この扉が現れ、途絶えていた巡術の脈が途方もない温もりとともに繋がり直したのを感じました」
「途方もない温もり……」
「ええ。まるで、誰かが命がけで巨大な柱を打ち直し、世界そのものを優しく抱きかかえてくれたかのような……」
アルテの言葉に、朔夜は胸の奥がじんと熱くなるのを感じた。
(父さんと母さん……そして、みんなで守り抜いたあの中央炉のことだ)
ただ店を守るためだと思っていた戦いが、見知らぬ空の上の世界まで救っていた。両親がこの店に込めた「次元の錨」の本当の意味が、優しく紐解かれていく。
◆
「よし、クロノ。アルテさんにもう一杯、温かいお茶を淹れようか」
「みぁ〜ん!」
クロノはすばしっこくカウンターを駆け抜け、茶葉の缶の横へちょこんと座った。
「アルテさん。この店は、お腹を空かせた方ならどなたでも歓迎します。天空都市の皆さんにも、ぜひいつでも羽を休めにいらしてくださいね」
「サクヤ殿……! ああ、ありがとうございます! 王宮へ戻り、すぐにこの素晴らしい吉報を報告いたします!」
アルテの目には、未来への希望に満ちた光が宿っていた。
◆
新しい世界との開通。それは、黒猫亭が果たすべき本当の役割の始まりだった。
過去から受け継いだ絆が、新たな世界と人々を優しく繋いでいく。
物語はいよいよ最高潮の賑わいと、温かな大団円へ向けて加速していくのだった。




