第百六十七話 はじめてのお客様と、やさしいオムライス
「いらっしゃいませ!」
朔夜が爽やかな笑顔で迎えると、少女はおどおどとした様子で、店内の様子を伺うように一歩足を踏み入れた。
大きな帽子に、丈の長い旅人風のローブ。背中には体よりも大きなリュックを背負っている。どうやら遠くの街から旅をしてきた途中のようだ。
「ふにゃ〜」
緊張している少女に気づいたのか、クロノがカウンターから静かに飛び降り、トコトコと足元へ寄っていった。
少女の前で首をちょこんと傾げ、可愛い声で鳴いて見せる。
「あ……くろねこちゃん……可愛い……」
クロノのやわらかな毛並みに触れ、少女の表情からすーっと緊張がほぐれていった。
「立ち話もなんですし、どうぞ空いている席へお掛けください」
◆
席に着いた少女は、照れくさそうに小さな声を漏らした。
「あの……私、薬草の採取でこの街に来たんですけど、道に迷っちゃって……お腹がペコペコで……」
「なるほど、それは大変でしたね。何か食べたいもののリクエストはありますか?」
「えっと……あたたかくて、ふわふわしたものが食べたいです……!」
「ふわふわですね。かしこまりました!」
◆
朔夜が厨房でフライパンを取り出す。
チキンとタマネギを特製ケチャップで炒めた香ばしいチキンライスを作り、型を整えて皿に盛る。
そして、新鮮な卵をたっぷり使った絶妙な火加減の薄焼き玉子を重ね――ナイフで中央をすっと割ると、とろけるような半熟の玉子がトロリと全体を包み込んだ。
仕上げにじっくり煮込んだ自家製デミグラスソースを回しかけ、パセリを散らせば完成だ。
「お待たせしました。『とろとろ玉子の特製デミグラスオムライス』です」
◆
「わあぁ……! すごい、ケーキみたい……!」
少女は目を輝かせ、スプーンを半熟玉子とチキンライスへ差し込んだ。
ハフハフと息を吹きかけながら口へ運ぶと、一瞬で顔全体にパッと幸せそうな笑みが弾けた。
「おいしい……! 玉子がすごくふわふわで、ソースがお肉の味がして……心がポカポカしてきます……!」
「ガツガツ食べるのもいいが、そういう風に美味そうに食う姿を見るのも良いもんだな」
奥の席でポトフを平らげていたガルドが、目を細めて嬉しそうに頷く。
「ふふ、サクヤの料理は誰が食べても笑顔になっちゃうのよね」
セレスとレインも微笑ましく少女の様子を見守っていた。
◆
「みぁ〜ん」
少女の足元で、クロノが「満足できたかい?」と言うように誇らしげに尻尾を振っている。
結界が安定し、新たな道が開けたことで訪れた小さな冒険者。
朔夜とクロノが守り抜いた黒猫亭は、今日も誰かの心を温かく満たしていくのだった。




