第百五十八話 地下の迷宮と、忍び寄る影
長い石段を下りきった先に広がっていたのは、見渡す限りの広大な地下迷宮だった。
壁面には微かな青白い光を放つ魔導鉱石が埋め込まれており、暗闇を優しく照らしている。壁や床には几帳面に削られた石ブロックが積み上げられ、まるで城の地下通路のようだった。
「ふむ……外の寒さとは打って変わって、地下の空気は妙に落ち着いているな」
ガルドが足を止め、壁の鉱石を物珍しそうに眺める。
「でも、油断はできませんよ。日誌にあった通り、ここから先は『中央炉』を守る防衛機構や、魔力を求めて集まった魔獣が潜んでいる可能性があります」
朔夜が羅針盤を確認すると、青い針は迷宮の奥、いくつもの分岐が交差する先を一直線に指していた。
◆
「迷路のようだけど、その羅針盤があれば迷う心配はなさそうね」
セレスが安心したように息を吐く。
「みぁ〜……」
だが、その時。朔夜の胸元で大人しくしていたクロノがピクッと耳を立て、警戒するように小さく唸った。
緑のマフラーから顔を出し、通路の角――暗がりが濃くなっている右手の分岐をじっと見つめている。
「クロノ……? 何か聞こえるのか?」
「みっ……シャーッ!」
クロノが毛を逆立て、鋭い威嚇の声を上げた。
◆
――カサカサカサ……。
暗闇の奥から、無数の硬い爪が石床を擦る不気味な音が響いてくる。
「みんな、構えて! 来るぞ!」
ガルドが大斧を構え、即座に前衛へ躍り出た。
レインも短剣を抜き、セレスは杖を構えて魔力を練り上げる。
薄暗い通路の奥から姿を現したのは、全身が青い氷の甲殻で覆われた巨大な蜘蛛――『アイススパイダー』の群れだった。
無数の赤い複眼が、侵入者である一行を静かに見下ろしている。
「中央炉の魔力に引き寄せられて巣を作っていたみたいですね……!」
レインが身構える。
◆
「ここは俺たちに任せろ、サクヤ! 羅針盤から目を離すなよ!」
ガルドが豪快な叫びとともに大斧を振り抜き、迫り来る氷蜘蛛の一撃を弾き返した。
「ええ、サクヤさんは私たちの後ろに! 一気に路を切り開くわよ!」
セレスの杖の先端から、眩い火球が練り上げられていく。
「ふにゃーっ!」
クロノも朔夜の肩から飛び出し、すばしっこい動きで氷蜘蛛の視界を狂わせるように威嚇した。
未知の地下迷宮で、仲間たちの絆が試される最初の戦いが始まろうとしていた。




