第百五十一話 共鳴する魔力と、刻まれた記憶
青い光が波紋のように広がり、遺跡を包み込んでいた暴走冷気がすっと凪いでいく。
氷の膜がサラサラと音を立てて砕け散り、露出した石碑の表面に、色鮮やかな光の文字が浮かび上がった。
『……黒猫亭の鍵を受け継ぎし者よ』
頭の中に直接響くような、不思議で澄んだ声。
朔夜は息を呑み、胸元に抱いたクロノをそっと撫でながら石碑を注視した。
(黒猫亭の鍵を受け継ぐ者……)
両親から大切に受け継いだあの喫茶店。もしかするとこの店には、ずっと昔から語り継がれてきた深い歴史と秘密があるのかもしれない――そんな思いを胸に、朔夜は静かに耳を傾けた。
◆
『この地は、次元の境界を繋ぐ「結界の楔」である』
『異界より流れ込む莫大な霊素をろ過し、黒猫亭の空間を安定させるための機関……』
石碑に刻まれた記憶が、光の粒子となって朔夜の脳裏へと流れ込んでくる。
かつて黒猫亭がこの世界へ転移してきた際、次元の歪みを抑え込むための「錨」として、この迷いの森に結界の核が打ち込まれたのだという。
しかし長年の月日を経て結界核の魔力が変質し、暴走した冷気となって周囲へと溢れ出していたのが、今回の異変の真相だった。
◆
「みぁ……」
クロノが愛らしい声で鳴き、小さな前足で朔夜の持つ真鍮の羅針盤をぽんと叩いた。
羅針盤の針は、いまや石碑の真中央をまっすぐに指している。
「そうか……お店の地下室に眠っていたあの羅針盤は、この結界を抑えるための『調整鍵』だったんだな」
両親から預かったあの店を守るため、そしてこの街の平和を取り戻すために。
朔夜は決意を込め、真鍮の羅針盤を石碑の凹みへと慎重にはめ込んだ。
◆
カチリ――。
重厚な金属音が響き渡り、羅針盤と石碑が完全に一体化する。
次の瞬間、温かな黄金色の光が石碑全体を包み込み、刺すような冷気がみるみるうちにやわらいでいった。
凍りついていた周囲の木々から氷が溶け落ち、澄んだ優しい風が森を吹き抜けていく。
「よし……結界の暴走が収まったみたいだ」
朔夜が胸をなで下ろしたその時。
石碑の台座がゴゴゴと静かに音を立て、地下へと続く新たな隠し階段が現れた。




