第百五十話 凍てつく結界と、古代の遺跡
アイスウルフを退けてから、さらに森の奥へと進むこと一時間。
木々の密度が増すにつれ、周囲の冷気は一層激しさを増していった。
吐く息は一瞬で白く凍りつき、踏みしめる雪の音すら硬く乾いた音へと変わっていく。
「ふにゃう……」
「寒くなってきたな、クロノ。もう少しの辛抱だ」
朔夜はクロノを抱きかかえ、防寒着の胸元に入れて温めながら歩を進める。
胸元で緑のマフラーにくるまったクロノが、安心したように「みぁ」と小さく鳴いた。
◆
やがて、突如として開けた広場のような場所に出た。
そこには、古代の巨石建築を思わせる石造りの遺跡がひっそりと佇んでいた。
苔むしていたはずの石柱は分厚い氷の膜で覆われ、まるで時間が凍りついたかのような幻想的かつ壮絶な光景が広がっている。
そして、その遺跡の中央にそびえ立つ一際大きな石碑の前に向かって、ポケットの中の羅針盤が激しく青い光を放っていた。
(ここだ……ここが冷気の発生源で、黒猫亭の羅針盤が指し示していた場所だ)
◆
朔夜が石碑へ近づこうと踏み出した瞬間、ブワッと激しい冷気の風が二人を襲った。
透明な青い光の膜――魔法の結界が、石碑を守るように周囲を覆っている。
冷気の元凶はこの結界が暴走し、外部へ溢れ出していることによるものだった。
「この結界の模様……どこかで……」
朔夜は目を見張った。
石碑に刻まれた複雑な魔法陣の意匠。それは、黒猫亭の地下室の扉や、あの日誌の表紙に刻まれていた紋章とまったく同じものだったのだ。
「黒猫亭をこの世界へ転移させた魔法と、この遺跡の結界は……繋がっているのか?」
◆
確信を得た朔夜は、ポケットから真鍮の羅針盤を取り出した。
羅針盤を握り締め、結界の表面へとそっと近づけてみる。
すると、羅針盤から放たれた青い光と結界の光が共鳴し、キーーーンと美しい金属音が森に響き渡った。
「みぁっ!」
クロノが胸元から顔を出し、目を丸くして石碑を見つめる。
暴走していた冷気の風がぴたりとやみ、分厚い氷の結晶がパラパラと砕け散っていく。
黒猫亭の鍵たる羅針盤が、古代の遺跡に眠る「真実」の扉をひらこうとしていた。




