第百四十話 古い鍵と、隠された地下扉
初雪が街をうっすらと白く染めた翌日、冷え込みはさらに厳しさを増していた。
本格的な冬の到来に備え、朔夜は店の備品チェックと大掃除を兼ねて、厨房奥の保管庫を片付けていた。
積まれた木箱を動かしていた時、床の片隅に小さな違和感を覚える。
「……ん? ここは……」
使い込まれた板張りの床に、うっすらと四角い切れ目が入っていた。
表面のホコリを払い、隠されるように置かれていた古い樽を退けると、そこには固く閉ざされた小さな木製のハッチ――地下へと続く扉が現れた。
◆
「みゃ……?」
異変に気づいたクロノが、緑のマフラーをなびかせながらトコトコと寄ってくる。
扉には頑丈な金属製の南京錠が取り付けられており、手で引っ張ってもびくともしない。
朔夜はふと思いつき、先日見つけたあの古い日誌を取り出してみた。
日誌の分厚い革表紙の裏を優しくなぞってみると、小さなポケット状の切れ込みがあり、そこから真鍮製の古びた鍵がひとつ、ころりと掌に転がり落ちてきた。
(……やっぱり、この店にはまだ俺の知らない過去がある)
◆
カチリ、と静かな金属音が響き、南京錠が重々しく外れた。
ゆっくりとハッチを持ち上げると、ひんやりとした古い空気とともに、地下へ続く石造りの階段が暗闇の中に伸びていた。
「ふにゃ〜……」
少し身構えるクロノの頭を優しく撫でながら、朔夜はランプを取り出し、明かりを灯す。
「大丈夫だ、クロノ。少しだけ中を覗いてみよう」
◆
ランプの灯りに照らし出された地下室は、ホコリこそ被っていたものの、かつて調味料やワイン、そして怪しげな魔導具のようなものを保管していた跡が残っていた。
部屋の奥にある古い机の上には、一冊の大きな羊皮紙の地図と、不思議な光を放つ小さな羅針盤が静かに置かれている。
(前の店主は……ここで何をしていたんだ?)
この店が異世界から移転してきた理由、そして前の店主が残した「選択」の意味。
黒猫亭の深奥に眠る謎が、静かにその姿を現そうとしていた。
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