第百三十九話 初雪の訪れと、根菜のポトフ
翌朝、朔夜がいつものように勝手口を開けると、ひんやりとした空気が肌を刺した。
空からは静かに、白い小さな粒がひらひらと舞い落ちてくる。
「……雪か」
この街にやってきて、初めて見る初雪だった。
ほんの少し前まで色づいていた街並みが、うっすらと白く装飾されていく。
お気に入りの緑のマフラーを巻いたクロノも勝手口からそっと顔を出し、不思議そうに空を見上げて「ふにゃー……」と短く鳴いた。
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本格的な冬の始まりを告げる雪に、街の人々もコートの襟を立てて足を早めている。
朔夜はこんな日にぴったりな料理を作ろうと、厨房で大きな鍋を火にかけた。
仕込むのは、大きな根菜と塩豚をじっくり煮込んだ『あったか根菜ポトフ』だ。
じっくり時間をかけてとった出汁に、ゴロリと大きく切ったカブやニンジン、柔らかく煮込んだ塩豚。
隠し味にほんの少しのハーブを加えれば、鍋からは素材の旨味が凝縮されたやさしい湯気が立ち上る。
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「サクヤさーん! うう、外はすっかり冬だよー!」
開店と同時に、赤く鼻をあたまらせたルカが駆け込んできた。
続いてレインやガルド、セレスも「初雪だなあ」と息を白くさせながら店内へと入ってくる。
「皆さん、お手をどうぞ。熱々のポトフができていますよ」
スープ皿に盛られたポトフは、澄んだスープの中に彩り豊かな野菜とゴロッとした肉がのぞき、見た目にもあたたかい。
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「ふー、ふー……モグッ。……んん〜っ! カブが口の中でとろける……!」
「スープに肉と野菜の旨味が溶け出してて、体に染み渡るなあ」
ルカが幸せそうに頬を緩め、ガルドもスープをごくぐりと飲み干して息を吐く。
ストーブの火とポトフの湯気に包まれた店内は、外の寒さをすっかり忘れさせるほどの温もりに満ちていた。
カウンターの上では、クロノがルカにマフラーを撫でられながら満足そうに目を細めている。
降り始めた初雪を窓越しに眺めながら、黒猫亭のあたたかな冬の一日が始まっていた。




