第百三十五話 深まる秋と、一冊の古い日誌
しっかり休日を挟んで体を休めた翌日。「黒猫亭」は朝から爽やかな秋空の下、いつも通りの営業を再開していた。
「サクヤさん、おはよう! 一日の休業でシチューの余韻が恋しくなっちゃったわ」
「ハハッ、俺もだ! 休み明けの一杯、頼むぜ!」
開店と同時にセレスやガルドが顔を出し、店内はいつもの賑やかさを取り戻していく。
朔夜の手際よい調理と、カウンターで可愛らしく出迎えるクロノの姿。大収穫祭を経て、黒猫亭と街の人々との絆はより一層深まったように感じられた。
◆
やがて昼過ぎのピークが過ぎ、静けさが戻った店内で、朔夜はカウンターの奧の棚を片付けていた。
店の掃除の最中、棚の最奥にあった古い木箱の裏から、一冊の小さな革表紙のノートが落ちてきたのだ。
「ん……? これは……」
埃を払ってページをめくってみると、そこには見覚えのない文字で、この店舗自体がかつて異世界へ移転してきた頃の記憶か、あるいは以前の所有者のものと思われる手記が記されていた。
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『この街の秋は美しい。人々は優しく、料理を愛してくれる。……けれど、いずれ選び取らねばならない時が来る。この世界にとどまるか、あるいは――』
文字はそこでかすれて途切れていた。
(自分よりも前に、この店ごとこの世界にやってきた先客の手記か……?)
朔夜がその数行をじっと見つめていると、膝の上にぽんと飛び乗ってきたクロノが、心配そうに「ふにゃ……?」と顔を覗き込んできた。
◆
「大丈夫だよ、クロノ。少し珍しいものを見つけただけだ」
朔夜は優しくクロノの頭を撫でながら、静かに日誌を閉じた。
これから訪れる冬、そして春。
この店で過ごす日々の中で、自分自身もいつか大きな選択に向き合う時が来るのかもしれない――。
少しだけ冷たさを増した秋の風が窓を揺らす中、朔夜は温かなクロノの体温を感じながら、静かに次の仕込みへと向かうのだった。




