第百三十一話 祭りの前夜と静かな誓い
大収穫祭を明日に控えた街は、夜遅くまで独特の熱気に包まれていた。
大通りには色鮮やかな旗や提灯が掲げられ、屋台の骨組みがズラリと立ち並ぶ。
黒猫亭の厨房でも、朔夜が明日のための大仕込みの真っ最中だった。
「これで仕込みはすべて完了だな」
寸胴鍋いっぱいに仕込んだ『秋恵みシチュー』からは、黄金茸と根菜の深いコクが合わさった極上の香りが漂っている。
焼き上がったパンの香りも厨房を満たし、準備は完璧だった。
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エプロンを外し、冷えた手ぬぐいで顔を拭うと、朔夜は疲れた腰を落とした。
勝手口の扉を少し開けると、秋の冷たい夜風がそっと入ってくる。
見上げれば、雲ひとつない夜空に満月が静かに輝いていた。
「……早いものだな」
ポツリと漏らした呟きに、足元で丸くなっていたクロノが顔を上げ、「ふにゃ?」と短く鳴いた。
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この異世界に突然迷い込み、手探りで黒猫亭を開店してから、どれくらいの月日が流れただろう。
最初は右も左もわからず、ただ一日を過ごすのに必死だった。
けれど今では、レインが届けてくれる珍しい食材に心を躍らせ、ガルドやセレス、ルカたちの笑顔に報われ、こうして街の一大イベントに一店主として参加しようとしている。
「クロノ、お前がいてくれたから、俺はここでやってこられたんだよ」
膝の上にクロノを抱き上げ、耳の後ろを優しく撫でる。
クロノは満足そうに目を細め、「ゴロゴロ……」と胸に響くような深い喉鳴らしを返してくれた。
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「よし。明日は黒猫亭の最高の味を、街のみんなに届けるとしよう」
「みゃーお!」
力強い相棒の鳴き声に背中を押され、朔夜は静かに店の明かりを消した。
いよいよ訪れる大収穫祭の本番。
黒猫亭の長い歴史に刻まれる、賑やかで温かな一日が、すぐそこまで迫っていた。




