第百三十話 極上のシチューと試食の賑わい
厨房に立つ朔夜の手元から、黄金茸の上質な香りが立ち上っていた。
石づきを丁寧に削ぎ落とし、手で大きく割いた黄金茸を、少量のバターでサッと炒める。
加熱された瞬間にあふれ出す濃厚な旨味の汁。そこへ、あらかじめ出汁を取っておいた野菜ブイヨンと、ゴロゴロと大きめに切った琥珀芋、甘みの乗った秋の根菜類を投入していった。
「焦がさないように、ごく弱火でじっくり煮込む……」
木べらで静かに鍋底を撫でると、黄金茸から出た出汁がスープ全体を黄金色に染め上げていく。
足元では、良い香りに耐えかねたクロノが「ふにゃ〜ん」と早く頂戴と言わんばかりに鳴いていた。
◆
じっくり煮込むこと小一時間。
具材に火が通り、素材同士の旨味が溶け合ったところで、塩とごく少量の香草で味を調える。
『黄金茸と琥珀芋の秋恵みシチュー』の完成だ。
「よし、レインさん。セレスさん、ガルドさん。熱いうちにどうぞ」
試食のために集まってもらっていた常連たちの前に、湯気の立つ深皿が並べられる。
色鮮やかな黄金色のスープに、ゴロリとした根菜と黄金茸が存在感を放っていた。
◆
「うわぁ……香りがすでに反則的ね」
「いただきまーす!」
セレスとレイン、そしてガルドが一斉にスプーンを口へ運ぶ。
次の瞬間、三人とも目を見開き、言葉を失って固まった。
「……っ! なんだこれ……! キノコの出汁が凄まじいぞ! 芋の甘みと混ざり合って、コクがとんでもねぇ!」
「黄金茸のジューシーな食感がそのまま残ってる……! サクヤさん、これ本当にただのシチューなの!? まるで極上のメインディッシュよ!」
ガルドが唸り、セレスもうっとりと頬を緩ませる。
レインに至っては無我夢中でスプーンを動かし、「おかわり!」と叫んでいた。
◆
「大成功だな、クロノ」
「みゃー!」
満足そうにシチューを平らげる常連たちの笑顔を見ながら、朔夜は力強く頷いた。
街中が期待を寄せる大収穫祭。
この『秋恵みシチュー』なら、きっと黒猫亭を訪れるすべての人々の心と体を温めることができるはずだ。
祭りの本番へ向けて、朔夜とクロノの挑戦は確かな手応えとともに次なるステップへと進んでいくのだった。




