第百二十七話 秋の夜長と温かなスープ
ルカが嬉しそうに帰っていった後も、黒猫亭にはぽつりぽつりと秋の味覚を求める客が訪れ、穏やかな時間が流れていった。
すっかり日が落ちると、夜の風は一層冷たさを増してくる。
朔夜はパチパチと音を立てる薪ストーブに火をくべ、店内の温度を心地よく保った。
「そろそろ、夜は温かい料理が恋しくなる季節だな」
仕込みの手を止め、朔夜が呟くと、ストーブの前の特等席で丸くなっていたクロノが、耳をぴくっと動かして「みゃ」と小さく応えた。
◆
朔夜は厨房へ戻ると、明日からの夜メニューの試作に取りかかった。
準備したのは、甘みの強い琥珀芋の端材と、じっくり炒めた玉ねぎ、そして濃厚なミルク。
「甘いお菓子だけじゃなく、スープにしてもこのお芋は力を発揮しそうだ」
裏ごしした琥珀芋を自家製の野菜ブイヨンとミルクで優しく伸ばし、極弱火でじっくりと温めていく。
仕上げにほんの少しの塩とバターを加えると、黄金色に輝く濃厚なポタージュスープが完成した。
◆
スープマグに注ぎ、カリッと焼いたクルトンを浮かべる。
立ち上るやさしい湯気からは、お芋の甘みとバターの豊かな香りが漂ってくる。
「クロノ、ちょっと味見してみるか」
朔夜が声をかけると、クロノはとことこと足元へ寄ってきて、期待に満ちた金色の瞳で見上げてきた。
自分用に味付け前の芋とミルクを温めた小皿を置くと、クロノは嬉しそうに「ハフハフ」と音を立てて味わい始めた。
◆
朔夜も一口、温かいポタージュをスプーンですくって口に運ぶ。
「……うん、体に染み渡るな」
まろやかなコクと琥珀芋本来のやさしい甘みが、冷えた身体を内側からじんわりと温めていく。
レインが次に持ってくると言っていたキノコや根菜が届いたら、このスープに添えるパンや煮込み料理の幅も一気に広がりそうだ。
「明日の夜からは、このポタージュもメニューに加えてみよう」
静かな秋の夜長、黒猫亭の厨房からは、明日訪れる客人を温めるための優しい湯気が、絶え間なく立ち上っていた。




