第百二十三話 看板メニューと午後のお客
午後の営業が始まると、朔夜はさっそく店頭の黒板に新しいメニューを書き込んだ。
『秋の新作:琥珀芋の焼きスイートポテト(温かいお茶付き)』
涼しい秋風に乗って、店内に香ばしいバターと甘いお芋の香りが漂い始める。
スツールの上で丸くなっていたクロノも、耳をぴんと立てて扉のほうに視線を向けた。
◆
カランコロン、と涼やかな鈴の音が鳴り、最初に入ってきたのは冒険者ギルドの受付で働く女性客だった。
「サクヤさん、こんにちは! 外まで何だかすごく良い香りがしていて……って、黒板のそれ、頂いてもいいですか?」
「いらっしゃいませ。ええ、ちょうど焼き上がったところですよ。すぐにお持ちしますね」
朔夜は丁寧に焼き上げたスイートポテトを皿に乗せ、香ばしい煎茶と一緒にテーブルへ運んだ。
◆
「わあ、ツヤツヤで可愛らしい……! いただきますね」
女性客がフォークでひとくちサイズに切り分け、口へと運ぶ。
次の瞬間、うっとりとした表情で頬を押さえた。
「……んんっ! すごく滑らかで甘い!
お芋の濃厚な味が口いっぱいに広がるのに、後味が全然しつこくないですね。温かいお茶ともぴったり……!」
「ありがとうございます。今朝、商人のレインさんから仕入れた『琥珀芋』を使っているんです」
「まあ、あの琥珀芋をこんなにお洒落で美味しいお菓子に……! 仕事の疲れが吹き飛びそうです」
◆
嬉しそうにスイートポテトを味わうお客の姿に、朔夜も静かに目を細めた。
足元ではクロノが「満足してもらえたね」と言いたげに「ふにゃ〜」と優しく鳴いている。
「また明日も食べに来ちゃいそうです」
笑顔で帰っていくお客を見送りながら、朔夜はカウンターの上を軽く拭いた。
葡萄のタルトに続いて、琥珀芋のスイートポテトもどうやら評判は上々のようだ。
黒猫亭に届いた秋の実りは、今日もしずかに、そして確かに人々の心を温めていた。




