第百二十一話 琥珀芋の甘い温もり
店に戻ると、朔夜はさっそく琥珀芋をボウルで丁寧に水洗いした。
水に濡れた薄紫色の皮が、朝の光を受けてしっとりと輝く。
「まずは、素の味と食感を確認してみるか」
蒸し器に湯を張り、適当な大きさに切った琥珀芋を並べて火にかける。
調理台の端で座って見守るクロノも、立ち上り始めた湯気をじっと見つめていた。
◆
しばらくして蓋を開けると、ふわりと濃密な甘い香りが立ち上った。
竹串を刺してみると、まるで熟した果実のようにすっと吸い込まれていく。
「良い蒸し上がりだ。皮を剥いてみよう」
ナイフの背でそっと皮をめくると、レインが言っていた通り、中から色鮮やかな黄金色の芋身が現れた。
ホクホクとした湯気を立てる一口大の琥珀芋を、朔夜はふーふーと息を吹きかけて口に運ぶ。
◆
「……っ、これは凄いな」
口に入れた瞬間、なめらかな舌触りとともに、上質なハチミツを思わせる濃厚な甘みが広がった。
繊維質が少なく、しっとりと口の中で溶けていくような食感だ。
「素材の甘みがこれだけ強ければ、砂糖は控えめでも十分お菓子に仕上がる。
スイートポテトやポタージュにしても面白そうだ」
朔夜が呟くと、クロノが「僕にもちょうだい」とすり寄ってきた。
小さく削った熱くないところを手のひらに乗せてやると、クロノはペロリと舐め取り、目を細めて「ふにゃ〜」と嬉しそうに喉を鳴らした。
◆
「クロノもお気に召したみたいだな。
よし、この琥珀芋を使って、肌寒くなってきた季節にぴったりの温かい焼き菓子を作ってみよう」
エプロンを締め直した朔夜の手に、職人としての火が灯る。
レインが届けてくれた秋の恵みは、黒猫亭の厨房でどんな形に生まれ変わるのか。
窓から差し込む爽やかな秋空の下、新しいメニューづくりが始まった。




