第十二話 閉店後の来客
コンコン。
静かな店内に、もう一度ノックの音が響く。
朔夜は時計を見る。
時刻は、とっくに閉店時間を過ぎていた。
「……こんな時間に?」
呟きながら入口へ視線を向ける。
その瞬間。
クロノの毛が、ふわりと逆立った。
「……!」
低い唸り声。
さっきガルドへ向けていた態度とは明らかに違う。
朔夜の空気も自然と引き締まる。
店の外には、フードを深く被った人影が立っていた。
顔はよく見えない。
ただ。
妙な圧迫感だけがある。
「……営業中か?」
低い声だった。
どこか粘つくような、不快な響き。
クロノの唸り声が強くなる。
「シャァ……ッ」
完全に威嚇していた。
朔夜は無意識に息を呑む。
その時だった。
頭の奥で、静かな感覚が広がる。
――拒絶可能。
不思議と意味が理解できた。
これが、“店主権限”。
朔夜は扉越しに、男を見る。
店内へ入れたくない。
そう思った瞬間。
ガンッ!!
見えない壁にぶつかったように、男の身体が大きく弾かれた。
「なっ……!?」
男が目を見開く。
扉には触れていない。
なのに、何かに拒まれていた。
黒猫亭そのものが、侵入を拒絶している。
クロノは低く唸ったまま、扉の前から動かない。
男は数秒間こちらを睨んでいたが、やがて舌打ちした。
「……チッ」
そのまま踵を返し、夜の闇へ消えていく。
足音が完全に聞こえなくなってから。
ようやく店内の空気が緩んだ。
「…………今の、何だったんだ」
朔夜は呆然と呟く。
するとクロノが足元へ戻ってきて、何事もなかったように鳴いた。
「にゃ」
「いや、お前は絶対分かってるだろ……」
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