第十一話 閉店後
ガルドは、それからしばらく店にいた。
追加で出したコーヒーをゆっくり飲みながら、ぽつぽつと旅の話をする。
北の森では魔物が増えていること。
遠征帰りの冒険者が何人も倒れたこと。
最近は街の空気も、どこか張り詰めていること。
朔夜は相槌を打ちながら話を聞いていた。
知らない単語も多い。
けれど、不思議と嫌な感じはしなかった。
ガルドの声には、どこか安心感があったからだ。
「……悪い、長居したな」
気付けば、時計はかなり遅い時間を指していた。
ガルドは少し申し訳なさそうに立ち上がる。
するとクロノも、するりと膝から降りた。
「いえ、大丈夫ですよ」
「客がいる方が喫茶店っぽいので」
そう言うと、ガルドは吹き出した。
「はは……違いねぇ」
笑った顔は、店へ入ってきた時よりずっと穏やかだった。
入口まで見送ると、ガルドは扉の前で振り返る。
「助かった」
短い言葉だった。
けれど、重みがあった。
「また近くを通ったら寄らせてもらう」
「はい。お待ちしてます」
カラン。
ベルが鳴り、扉が閉まる。
外の夜風が、一瞬だけ店内へ入り込んだ。
再び静けさが戻る。
「……行ったな」
朔夜は小さく息を吐いた。
すると。
「にゃ」
クロノが足元へ擦り寄ってくる。
「お疲れ様ってか?」
しゃがんで撫でると、クロノは満足そうに喉を鳴らした。
静かな店内。
暖かな灯り。
コーヒーの香り。
異世界へ来たはずなのに。
不思議と、黒猫亭の中だけは変わらない。
その時だった。
コンコン。
閉店後のはずの扉が、静かに叩かれた。
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