第百十八話 ガルドの豪快な満足と夕闇の黒猫亭
セレスがタルトの余韻を味わっていると、ドタドタと勢いよく扉が開いた。
「おう、サクヤ! 喉が渇いてたまらん、冷たい水と……ん? なんだありゃ、美味そうなタルトじゃねえか!」
入ってきたのは冒険者のガルドだった。
大きな身体を揺らしながらカウンター席へどっかりと腰を下ろし、セレスのお皿と黒板のメニューを交互に見比べる。
「ガルドさん、お疲れ様です。今朝届いた紫雫葡萄で作った新作のタルトですよ」
「紫雫葡萄だぁ? あの高級なやつか! よし、俺にもそれと、あったかい蜜香茶をくれ!」
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朔夜が手早く準備し、大きなタルトのカットとお茶を差し出す。
ガルドは豪快にフォークを突き立て、口いっぱいに頬張った。
「ぐっ……! なんだこりゃあ!
サクサクの生地の中に、甘酸っぱい果汁がじゅわっと溢れてきやがる!」
大きな口でモグモグと噛み締め、熱い蜜香茶をゴクゴクと豪快に飲み干す。
「ふううっ……! お茶の甘い香りが口の中に残った葡萄の酸味と混ざって、最高に後味がすっきりするぜ。疲れが一気に吹き飛ぶな!」
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「あらガルド、相変わらず豪快な食べ方ね。でも、本当に美味しいでしょう?」
「おうセレス! こんな贅沢な味わい、街の一流店でもそうそう食えねえぞ」
二人の賑やかなやり取りに、厨房の朔夜は静かに微笑んだ。
足元ではクロノが「でしょう?」と言いたげに尾をゆっくりと揺らし、ガルドの脚にスリスリと体を寄せている。
「おっ、クロノ! お前もこの美味いタルトの看板猫として、いい仕事してるな!」
ガルドに大きな手でワシワシと頭を撫でられ、クロノは目を細めて「ふにゃ〜」と気持ち良さそうに声を漏らした。
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やがて空は深い群青色に染まり、街灯のやわらかな光が石畳を照らし始める。
「サクヤさん、ごちそうさま。今日も素敵な時間をありがとう」
「おう、サクヤ! また明日も来るぜ!」
満足そうな笑顔で帰っていく二人を見送り、朔夜は「ありがとうございました」と静かに頭を下げた。
カランコロンとドアベルが鳴り、静寂を取り戻した店内に、心地よい秋の夜風が吹き抜ける。
紫雫葡萄のタルトは大盛況のうちに完売となり、黒猫亭の九月は賑やかで温かな素晴らしいスタートを切るのだった。




