第百十七話 セレスの来店と新作の反響
夕方の開店準備を整え、表の黒板に『数量限定:紫雫葡萄の秋タルト』と書き加えた直後のことだった。
涼やかなドアベルの音とともに、綺麗な銀髪を揺らしたセレスが入ってきた。
「サクヤさん、こんにちは!
昨日の蜜香ロイヤルミルクティーがとても美味しかったから、今日も休憩がてら寄らせてもらったのだけれど……まあ、もう新しいお菓子が?」
「セレスさん、いらっしゃいませ!
ええ、今朝市場でいい紫雫葡萄が手に入ったので、さっそくタルトを焼いてみたんです」
◆
「紫雫葡萄のタルト……! ぜひそれを頂くわ。
今日はお勧めのストレートの蜜香茶と一緒に頼んでもいいかしら?」
「もちろんです。すぐにお持ちしますね」
朔夜は手早くタルトを切り分け、丁寧に淹れたストレートの蜜香茶とともにセレスの席へと運んだ。
透明感のある琥珀色のお茶と、深紫色の艶やかなタルトの対比に、セレスは「綺麗……」と思わず吐息を漏らした。
◆
「いただきますね」
セレスはフォークで小さくタルトを切り取り、ゆっくりと口に含んだ。
「……っ! 葡萄の甘酸っぱさがすごく濃厚……!
焼き上がった生地の香ばしさと合わさって、とっても贅沢な味わいだわ」
続けて蜜香茶を一口含んだセレスは、満足そうに瞳を細めた。
「お茶の華やかな香りが、葡萄の果汁と溶け合って後味がすごく爽やか……。
この組み合わせ、本当に素晴らしいわね。サクヤさん、天才じゃないかしら」
◆
「はは、ありがとうございます。葡萄の美味しさに助けられましたよ」
朔夜が控えめに笑うと、カウンターの端にいたクロノが「僕も手伝ったんだよ」とばかりに「ふにゃん」と胸を張った。
「ふふ、クロノちゃんもありがとね」
セレスの楽しそうな笑い声が響く店内に、夕暮れの心地よい風がふわりと吹き抜けていく。
黒猫亭の秋の新作タルトは、最高の滑り出しを見せていた。




