第百十二話 ルカの笑顔と看板猫の誇り
午後のティータイムが深まる中、
カランコロンと元気なドアベルの音が響いた。
「サクヤさん、クロノちゃん、こんにちはー!」
入ってきたのは、ルカくんとお母さんだった。
ルカくんは席に着くのももどかしい様子で、
カウンターのクロノの元へ駆け寄ってくる。
「ルカくん、こんにちは! いらっしゃい」
「クロノちゃん、あたまナデナデしてもいい?」
ルカくんが尋ねると、クロノは待ってましたとばかりに
「にゃ〜ん」と優しく喉を鳴らし、自ら頭を差し出した。
◆
「ふふ、クロノちゃんは本当にルカのことが好きねぇ。
サクヤさん、表の看板にあった新しいお茶のセットを二人分お願いできるかしら?」
「ありがとうございます! ルカくん用にはミルク多めで、
少し冷ましやすくしてお出ししますね」
朔夜は手早くスコーンを軽く温め直し、
蜜香ロイヤルミルクティーとクッキーをトレーに並べて運んだ。
◆
「わあ! いいにおいがする!」
ルカくんは目を丸くしてクッキーを手に取り、サクッと音を立ててかじった。
「おいしい! サクサクしてて、なんだかお花みたいにいいかおり!」
「本当ね……。このスコーンも、生地自体の香りと
ジャムの甘さが絶妙で、いくらでも食べられちゃいそうだわ」
お母さんも嬉しそうにスコーンを頬張り、
ミルクティーを一口飲んでほっと肩の力を抜いた。
◆
二人が美味しそうにお菓子を平らげるのを、
クロノはカウンターの端から誇らしげに見つめている。
「ルカくんたちも気に入ってくれてよかったな、クロノ」
朔夜がそっと背中を撫でると、
クロノは「えっへん」と胸を張るように朔夜を見上げ、
嬉しそうにゴロゴロと甘い喉鳴らしを響かせた。
子供の無邪気な笑顔と、親子の温かな会話。
黒猫亭の晩夏の昼下がりは、どこまでも穏やかで優しい時間に包まれていた。




