第百十話 至福の試食と秋のお茶会セット
粗熱が取れるのを待って、朔夜は焼き上がったばかりのお菓子を
白い陶器の平皿に並べた。
サクサクとした薄焼きの蜜香茶クッキーと、
ふっくらと厚みのある蜜香茶スコーン。
スコーンの脇には、ハニードロップを煮詰めて作った
黄金色の自家製ジャムと、クロノ用の無塩ミルクも少し添える。
「よし、冷めたぞ。試食してみよう」
朔夜が声をかけると、クロノは待ってましたとばかりに
スツールの上で背筋をぴんと伸ばした。
◆
まずはクッキーを指先でつまみ、一口かじる。
サクッ、と軽快な音が厨房に響いた。
「……っ! これはいいな。
噛んだ瞬間にバターのコクが広がって、
そのあとから蜜香茶の甘い香りがふわっと追いかけてくる」
細かく砕いた茶葉の粒がほどよいアクセントになっていて、
何枚でも手が伸びてしまいそうな軽やかな仕上がりだ。
◆
続いて、手で二つに割ったスコーンに
ハニードロップのジャムをたっぷり乗せて口へ運ぶ。
「……んん! 外はサクサクで、中はしっとりしてる。
ジャムのフルーティーな甘みと、生地に練り込んだお茶の深みが
めちゃくちゃ合うな」
隣でクロノも、お皿のミルクをぺろぺろと美味しそうに飲み干し、
満足そうに「ふにゃ〜」と喉を鳴らして朔夜の腕に頭を擦り寄せてきた。
◆
「クッキーもスコーンも大成功だな。
この焼き菓子と、あの蜜香ロイヤルミルクティーを合わせた
『秋のお茶会セット』として出したら、きっとみんな喜んでくれるぞ」
朔夜が笑顔で言うと、クロノは金色の瞳をキラリと輝かせ、
「にゃん!」と力強く賛同するように鳴いた。
晩夏の午後の陽だまりの中、
黒猫亭の新しい秋のメニューが、完璧な形で完成を迎えていた。




