第百九話 香る茶葉とサクサクの試作
静かになった午後の厨房で、朔夜はさっそく試作に取りかかった。
まずは蜜香茶の茶葉をすり鉢に入れ、
細かくすりつぶしてパウダー状にしていく。
擦れば擦るほど、茶葉本来の甘く芳醇な香りが
厨房いっぱいに広がっていく。
「いい香りだな……。クロノ、粉が飛び散るから少し離れててな」
調理台の脇で首を伸ばして覗き込んでいたクロノが、
「ふにゃ」と短く返事をして一歩だけ後ろへ下がった。
◆
朔夜は二つのボウルを用意した。
一つ目は、たっぷりの発酵バターと小麦粉、
そして細かく砕いた蜜香茶の茶葉をたっぷり練り込んだクッキー生地。
二つ目は、外はサクッと中はふんわり焼き上がるように、
冷たいバターを刻んでざっくり合わせた紅茶スコーンの生地だ。
「よし、どっちもいい感じにまとまったな。
オーブンでじっくり焼いてみよう」
型抜きしたクッキーと厚みを持たせたスコーンを天板に並べ、
温めておいたオーブンへと滑り込ませた。
◆
十数分後、オーブンからチーンと軽やかな音が鳴る。
扉を開けた瞬間、香ばしいバターの匂いとともに、
蜜香茶の華やかな香りがふわりと熱風に乗って溢れ出した。
「わあ……! すごく綺麗に焼き上がったぞ」
こんがりと黄金色に色づいたクッキーと、
綺麗な割れ目が入ったスコーン。
クロノも待ちきれない様子で、
鼻をひくひくさせながら朔夜の足元をぐるぐると回る。
◆
「クロノ、熱いから気をつけてな。
冷めるまで少し待ってから、味見してみよう」
網の上で粗熱を取る間、
二人は並んで焼き菓子をじっと見つめた。
甘い香りに包まれた晩夏の厨房で、
新しい定番スイーツの誕生がすぐそこまで迫っていた。




