第百七話 正式デビューと新しい黒板
翌朝、澄み切った青空から柔らかな日差しが差し込む中、
朔夜は店先のメニュー黒板を新しく書き換えていた。
チョークで丁寧に記された文字は、
『季節のおすすめ:蜜香ロイヤルミルクティー』。
その横には、クロノがちょこんと座っている可愛らしいイラストも添えられている。
「よし、これでバッチリだな」
仕上がりを眺めて朔夜が頷くと、
足元でお座りしていたクロノが「にゃん!」と満足そうに鳴いた。
◆
開店と同時に、涼しげなドアベルが鳴り響く。
「おはよう、サクヤ! 噂の新しいお茶を飲みに来たぞ」
一番乗りでやってきたのは、冒険者のガルドだった。
大きな体を揺らしながらカウンター席にどっかと腰を下ろす。
「ガルドさん、おはようございます! もう噂を聞いたんですか?」
「ああ、今朝ギルドでセレスが『もの凄く香りが良くて温まるミルクティーがある』って
大絶賛しててな。気になって早速寄らせてもらったぜ」
◆
「ありがとうございます! すぐに淹れますね」
朔夜は小鍋で手際よく蜜香茶を濃く煮出し、
新鮮なミルクと合わせて丁寧にカップへと注いだ。
立ち上る甘く芳醇な香りに、ガルドの鼻がピクリと動く。
「へぇ……! こいつはいつもの茶とは全然違う、
なんとも言えねぇ良い香りがするな」
大きな手でカップを持ち上げ、豪快に一口啜るガルド。
「……っ! うめぇなこれ!
濃厚なのに後味がすっきりしてて、甘い香りが鼻から抜けていくぞ。
朝の身体にじんわり染み渡るぜ」
◆
「ふふ、口に合って良かったです」
嬉しそうに微笑む朔夜の横で、クロノもカウンター越しに
「美味しいでしょ」とばかりに得意げに喉を鳴らした。
「マスター、こいつはこれからの涼しくなる季節に最高だな!
また通わせてもらうぜ」
豪快に笑いながらミルクティーを味わうガルドの姿に、
黒猫亭の新しい一日は、早くも温かな賑わいに包まれていた。




