第百六話 ミルクティーの評判と夜の帳
セレスさんが美味しそうにカップを傾ける姿を見て、
朔夜は手応えを胸にカウンターの片付けを進めていた。
「このミルクティー、薬草園の仲間たちにも教えてあげたいわ。
夕暮れ時のホッとする一杯に、これ以上のものはないもの」
「そう言っていただけると本当に励みになります。
明日からの正式メニューに並べてみますね」
嬉しそうに微笑み合う二人の間で、
クロノも「僕もおすすめだよ」と言わんばかりに
しっぽをゆったりと左右に揺らしている。
◆
カップを綺麗に飲み干したセレスさんは、
身体の芯から温まったようで、ほんのりと頬を桜色に染めていた。
「ごちそうさま、サクヤさん。
すっかり温まったから、夜風に当たってもへっちゃらだわ」
「お気をつけてお帰りくださいね」
カランコロンと涼やかなベルの音とともにセレスさんを見送ると、
通りにはすっかり夜の帳が下りていた。
◆
店先の灯りを落とし、鍵を閉めた朔夜は、
厨房で残った蜜香茶の茶葉を丁寧に気密瓶へと移し替えた。
(レインさんが持ってきてくれたおかげで、
夏の終わりから秋にかけての新しい定番ができたな)
瓶の蓋をしっかり閉めると、
足元から「にゃ〜」と甘えたような声が聞こえてくる。
見下ろすと、クロノが朔夜の足首に頭をすり寄せていた。
◆
「クロノ、今日も一日付き合ってくれてありがとうな」
朔夜が抱き上げると、クロノは胸元に顔を埋めて
トントンと小さく前足で朔夜の腕を揉む。
窓の外では、秋の虫たちが涼やかな声で鳴き始めていた。
優しいミルクの香りと心地よい疲労感に包まれながら、
黒猫亭の穏やかな夜は、静かに更けていくのだった。




