大学祭の算段
一ヶ月後に控える大学祭への出店に向けて話し合うために俺の部屋へと集まった。メンバーは俺と小林と時和、あと最上さんである。
「あー。秋の日向は気持ちいいなあ。なあ、小林。」
「そうだねえ。」
「あー、そうだ。見てくれよ、これ。ライター。買ったんだ。」
「へー、格好いいね。メタリックで。いくらしたの?」
「三千円。」
「え、本当?高くない?」
「そんなもんじゃね?相場は知らない。」
最上さんは俺のベッドで眠っている。
「何?ライターによって味が変わるの?」
「変わるよ。気分が変わるからね。」
「ふーん。禁煙はやめたの?」
「いや?続けてるよ。」
時和は窓を開けてライターで煙草の火をつけた。部屋の中に向かって風が吹いているので、煙が逆流している。会議は未だ開かれない。
「続けて無いじゃん。」
「今はね。これ吸ったらまた始めるんだよ。」
「ああ、禁煙する気ないんだね。」
「あるよ?禁煙しなきゃと思いながら吸う煙草が、背徳感があっていいんだよ。」
時和は口をだらしなく開けて煙を吐き出した。
「へー。お手軽な背徳感だね。」
「税込五百円。」
「やめとく。」
「そうか。」
じりじりと燃え尽きていく煙草を眺めながら、ぼんやりと時間が流れていく。流石に焦れたので、水を差すことにした。
「彼女はどう思うかな。その、煙草を吸っている姿を見て。」
時和は携帯灰皿に灰を落とし、姿勢を正した。小林もそれに倣う。
「さあ、会議を始めようか、諸君!」
俺は最上さんを揺り起こし、彼女はのんびりとあくびをした。一時間の時を経て、ようやく会議が始まった。
「なんとなく、前に話したことがあるかもしれないが、俺は大学祭で店を出さなきゃいけなくなった。という訳で、君たちの力を借りたい。」
「なるほどね。講義の一環だったね。」
「そうなんだよ、藤崎。なんか良い案無いか?なんかよう。」
「うーん。」
俺は頭を捻りながら、過去の文化祭を思い出していた。やはり定番はたこ焼きやかき氷。無難なものの方がいいんじゃないだろうか。
ジンジャーエールを飲みながら、会議はゆっくりと前進し始めた。
「予算はどのくらいあるの?」
最上さんが目をこすりつつ尋ねた。小林にもらった、俺のコスプレ写真が壁から興味深そうに聞いている。
「予算はね、まだ決まってない。出店募集の終了後に、参加団体の数に応じて大学からお金が出る。大学祭が終わったら、売り上げの中から出た予算プラス五千円を返却して、残りが自分の手元に残るんだ。」
なんか、凄く本格的だな。本当に店を経営するみたいだ。
「でもさ、時和。返却できなかったらどうなるんだよ。」
「おお、藤崎いい質問ですねえ。」
「あ、それ僕も気になった。ペナルティはあるの?」
「ないといえばない。まあ、そこは学校だよな。達成できなかった店舗は着服や不正をしていないかガサが入る。なんか汚いことやっていた場合は弁償及び次年度からの在学中の出店停止。綺麗な赤字は達成できなかった理由を考察してまとめたレポートと、経済学部の授業の題材になる程度だよ。」
「なるほどね。」
プラス五千円は、赤字を出した店舗のカバーにでも使われるのだろうな。
「まあ、予算はこれから決めるにしてもそんなに出ないよ。サークル活動の一環でやるとかなら違うんだろうけど、個人出店だから一桁万円台だろうな。」
「そんなものよね。」
「ただ、調理器具は無料貸し出しをしてくれるから、食べ物屋さんをやるなら純粋に材料費と店を飾り付ける費用くらいかな。」
なんか、真面目な時和を見たのは久しぶりだな。ちゃんと学生やっているんだな。俺は何を売るのか考えながらジンジャーエールを飲んでいると、小林が口を開いた。
「ホラーっぽいのやりたいな。」
「ホラー?」
時和が首をかしげる。まあ、ホラーは好きじゃない男だからな。眉間にしわが寄るのも仕方のないことだろう。
「何売るんだよ。お化け屋敷か?」
「僕が描いた絵ハガキとか。」
「うーん。それだけじゃなあ。」
時和が小林の提案を思案していると最上さんが口を開いた。
「こういうのはどうだろうか。」
彼女はカバンの中から小袋を取り出した。袋の口を縛っていたリボンをほどくと、甘い香りが部屋の中に広まった。マーブル模様のクッキーだ。
「私が作ってきたのを皆で食べようと思って作ってきたんだ。」
「ほー。上手いこと出来てるじゃん。」
時和が一枚クッキーを取り出してかじると、目を丸くした。
「めっちゃ美味いこれ!」
そう時和が言うと、俺も小林もクッキーに手を伸ばしてかじった。美味い。彼女の家に招待された時よりも格段に美味くなっている。小林も同じく目を丸くして言った。
「これ、売れるよ。食べた瞬間に黒字になるって天啓があった!」
「そう絶賛されると照れるな。」
「いや、誇っていいぜ、これはよ。」
小林と時和は次々に手を伸ばし、あっという間に平らげてしまった。俺、まだ一枚しか食べてないのに。
「それで私からの提案だが、抹茶を使ってマーブルクッキーを作りゾンビクッキー。トマトを使って血液クッキーと名付けて売るのはどうだろう。」
「あ、それで僕がお店をホラーに飾り付ければいいんだ。」
「ある程度の量を事前に作れるし、お店で焼けば匂いにつられる人も出るだろう。……どうかな。時和君。」
時和は目をつむり、腕組みをして考えた。少し緊張の間があって、時和はくわっと目を見開いた。
「決まりだな!」
小林と最上さんは、ハイタッチをして喜んだ。こうして時和店長を中心に、調理長最上さん、店舗デザインと絵ハガキ係が小林に決まった。三人とも友人に助力を扇ぐことで合意をしたようだ。その中に俺の名前は無い。
「なあ、俺は何すればいいんだ?」
小林が間髪入れずに答えた。
「血みどろ男爵のコスプレ。」
残りの二人も頷いた。




