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婚約破棄された最強令嬢は、花嫁修業で世界を救います。でも、聖女の恋心には気づけません。〜アリアーゼの花嫁修業〜  作者: 遠崎カヲル
第一章 出会いと居場所

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はじめてのおかいもの

 家の中を一通り見終わったが、広い家には家具も生活用品も何一つなかった。

 静まり返った部屋に、二人の足音だけが響いた。


「これは……買い出しが、必要ですわね」


「そうですね。ですが……」


 リオナは、懐から自分の財布を取り出した。


「わたしは、これしか持ち合わせておりません……」


 中には数枚の銀貨が入っていた。生活を整えるには、心もとない額だった。


「あら。わたくしも、そんなには持ち合わせておりませんわ。これで足りるといいのですけれど」


 アリアーゼが、そう言いながら、自分の財布を取り出す。

 開いた瞬間、じゃらり、と金貨が溢れ出した。


「……十分じゃないっすかね」


 リオナは、それだけを言って、しばらく、黙っていた。


    ◇  


 二人は村から一番近い街へと、買い出しにやってきた。

 比較的大きな街で、必需品は何でも揃いそうだ。


「まずは、お鍋ですわ!」


 アリアーゼが真っ先に手に取ったのは、大人がすっぽり入りそうな寸胴鍋だった。


「これなら、たっぷり作れますわ!」


「騎士団の野営じゃないんですよ!」


 リオナが呆れた声でたしなめると、アリアーゼは寸胴鍋とリオナの顔を見比べた。


「そうですわ。二人分でしたわね」


「お分かりいただけました?」


 リオナは小さくため息をついた。


    ◇ 


 次は、雑貨屋だ。食器や小物を買い揃えなくてはならない。


 アリアーゼは、店に入るなり、目を輝かせた。あれもいい、これもいい、と、はしゃぎながら見て回る。


「リオナ! これなんてどうかしら?」


「わあ! 可愛いですね!」


 傍から見ると、それはまるでデートのようで、いや、デートだった。


「リオナ。これを玄関に置くのはどうかしら?」


 アリアーゼの目に留まったのは、禍々しい顔をした木彫りの置物だった。


「幸せを呼ぶそうですわ」


「絶対、いりません!」


 リオナはやっぱり、小さくため息をついた。


    ◇  


 カーテンを見ていたとき、店員が、そっと寄ってきた。

 店員は、アリアーゼの身なりを見るなり、愛想のいい笑みを浮かべた。


「こちらの品は大変お勧めです。ただ、少々、お値が張りまして……」


 告げられた金額は、明らかに、相場より高かった。


「まあ、それくらいでしたら」


 財布を開こうとするアリアーゼを、リオナが、慌てて止める。


「ちょっと、待ってください!」


 リオナは、店員と、しばらく、値段のやり取りをした。相場を並べ、値引きを求め、粘り強く交渉する。

 やがて、店員が、根負けしたように、価格を下げた。


「リオナは、頼りになりますわね」


 アリアーゼが、感心したように、目を輝かせる。


「これくらい、普通ですよ」


 リオナのため息が大きくなった。


    ◇  


 二人が雑貨屋を出る頃には、荷物が山のように積み重なっていた。

 鍋に食器、調理道具に掃除道具。布団や毛布まで抱え込み、二人とも両手がふさがっている。


「リオナ。そろそろ持ちきれませんわ」


 アリアーゼが、少し困ったように首をかしげた。


「そうですね」


 山のような荷物を見回し、リオナは小さく頷いた。


「それでは、荷馬車を手配いたしましょう」


「まあ!」


 アリアーゼの表情が、ぱっと明るくなる。


「その発想はありませんでしたわ!」


「……わたしは、ある程度は予想しておりましたよ?」


 リオナは、大きくため息をついた。


    ◇  


 最後に立ち寄ったのは、家具屋だった。


「それで、ベッドは、いかがなさいますか」


 店員に問われ、リオナが答える。


「シングルサイズを二つ、お願いし……」


「いいえ。キングサイズ一つで」


 アリアーゼが、間髪入れずに被せた。


「……え?」


 リオナは思わず振り返る。


「アリアーゼ様、私たちは、それぞれのお部屋で、別々に寝るんですよね?」


「いいえ。一緒に寝ますわ。寝室が一つありましたでしょう?」


 アリアーゼの言葉に、リオナは部屋が一つ余っていたのを思い出した。


「そ、それ、本気でおっしゃってますか?」


「もちろんですわ」


 あまりにも迷いのない返事だった。


「だ、だって、それぞれの部屋があるのに……」


「いいえ。寝るのは一緒の部屋で、ベッドは一つです!」


 アリアーゼは、きっぱりと言い切った。


「夫婦生活とは、一つのベッドで一緒に眠るものですわ」


「わ、私たちは夫婦じゃありません!」


「ですから、練習ですわ!」


「理屈がおかしいです!」


「とにかく! ベッドはキングサイズ一つでお願いしますわ!」


 結局、押し切られた。

 リオナはその日一番のため息をついた。


 実は、アリアーゼが一つのベッドにこだわったのは、いつでもリオナを守れるよう、眠る時は一緒がいいと考えていたからだった。


 その理由を知るのは、もう少し先の話である。


 ――とにかく、こうして二人の新婚生活……じゃなかった、花嫁修業は始まったのである。


 ただし。


 リオナは、まだ知らなかった。

 これから始まる花嫁修業が、自分の想像していたものとは、まったく違うものになることを。


 そして――


 苦労すればするほど。

 呆れれば呆れるほど。


 なぜか自分が、この人から離れられなくなっていくことを。

二人は出会って拠点を設け、一緒に暮らすことになりました。

次回からは、いよいよ本格的な花嫁修業がスタートします!


※ぜひ次回もお楽しみください!

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