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婚約破棄された最強令嬢は、花嫁修業で世界を救います。でも、聖女の恋心には気づけません。〜アリアーゼの花嫁修業〜  作者: 遠崎カヲル
第四章 花嫁修業3 お掃除修業

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新たな旅立ち

 その日の夜遅く。

 リオナが王都の図書館から借りてきた本を、テーブルの上に広げていた。


「これが、世界樹について書かれていた文献です」


 アリアーゼとアッチムが、左右から本を覗き込む。


「世界樹の材は、切り出してから七日の間だけ加工できる……」


 リオナが、図書館で見つけた記述の部分を読み上げる。


「七日を過ぎると安定し、どんな刃も通さなくなるみたいです。そうやって作られたのが、伝説の武具のひとつ、世界樹の盾だそうです」


「なるほど。ということは――」


 アッチムが、文献とリオナを交互に見た。


「それをまな板に応用すれば、伝説のまな板になりそうっすね」


「まあ!」


 アリアーゼの顔が、ぱっと明るくなった。


「こんな素晴らしい情報を見つけてくるなんて、さすがリオナですわ!」


「いえ、わたしは文献を見つけただけで……」


「リオナ! 大好きですわ!」


「え? ちょっと、アリアーゼ様!」


 戸惑うリオナをよそに、アリアーゼが顔を寄せてくる。


「ちゅっ」


 そのままリオナの頬に口づけすると、ギュッと抱きしめた。

 リオナの顔が、一瞬で真っ赤になる。


「あ、アリアーゼ様! 大げさですから!」


 そんなリオナの反応などおかまいなしに、アリアーゼは満面の笑みを浮かべていた。

 その向かいで、アッチムがニヤニヤと笑みを浮かべている。


「……アッチム様。その顔は何ですか?」


「いやぁ、二人とも仲がいいなと思って」


 アッチムは、楽しそうに笑った。


「そんなことより! 世界樹のある場所なんですが!」


 リオナが話を戻す。


「エルセリルの森という場所に生えているみたいなんです」


「エルセリルの森?」


 アリアーゼが首を傾げた。


「エルヴス族が暮らしている、三つの大森林のうちの一つっすね。その中でも、一番大きな森っす」


 アッチムが答えた。


「エルヴス族ですか……」


 リオナは、考えるように視線を落とした。


「見かけたことはありますけど、話したことはありません」


「わたくしも、何度かお話ししたことはありますけれど」


 アリアーゼが、思い出すように首をかしげた。


「長生きだということくらいで、詳しいことは存じませんわ」


「まあ、長生きなのは本当っすけど、別に変わった連中じゃないっすよ」


 アッチムは、あっさりと言った。


「世界樹は彼らの象徴で、だいたいの連中が世界樹を信仰してるっすね。それくらいで、普通に暮らしてる連中っすよ」


「そうなんですね」


 リオナが頷く。


「まあ、人間とはちょっと感覚が違うところもあるっすけど」


 アッチムの言葉に、アリアーゼが興味を示した。


「どんなところですの?」


「それは、行ってみれば分かるっす」


 アッチムは、それ以上は語らなかった。


「ところで……」


 リオナが、文献へ目を戻す。


「アッチム様は、エルセリルの森へ行ったことがあるんですよね?」


「あるっすよ」


「では、案内していただけますか?」


「それが……」


 アッチムが、少し困ったように頭を掻いた。


「二つの理由があって、今回はうちは役に立たなそうっす」


「どういうことですか?」


 リオナが、じっとアッチムを見る。


「まずひとつめの理由なんすけど、世界樹についてはあまりにも昔すぎて、よく憶えてないんすよね」


 アッチムは悪びれもせずにケタケタと笑った。


「……アッチム様は、忘れっぽいんですね」


 リオナが薄目でアッチムを見つめた。


「ちがうっす!」


 アッチムが、慌てて否定した。


「うちらは、聖獣の姿のときなら、悠久の記憶をずっと持っていられるっす」


 アッチムはそう言いながら自分の頭を指で軽く叩いた。


「でも化身になると、入れ物が小さいんすよ。だから、全部の記憶を入れておくわけにはいかないっす。古い記憶から、少しずつ忘れていくんすよ」


「まあ……それなら、仕方ありませんわね」


 アリアーゼが、感心したように目を瞬かせた。


「そういうことっす」


 アッチムは、ほっとしたように頷いた。


「でも、エルセリルの森の場所くらいなら、たぶん覚えてるっす」


「それなら、よかったです」


 リオナが微笑む。


「それで……」


 アッチムは、少し言いにくそうに二人を見る。


「申し訳ないっすけど、今回は二人で行ってきてほしいっす」


「え?」


「これがふたつめの理由なんすけど、ネクロマンサーとの戦いで、まだ本調子じゃないのに、かなり力を使っちゃったんで」


 アッチムは、自分の胸元へ手を当てた。


「しばらく、この地に留まって静養したいっす。無理すると、治りが遅くなるみたいっすから」


「そういうことでしたら、無理はなさらないでください」


 リオナが頷く。


「ええ。アッチムには、ずいぶん助けていただきましたもの」


 アリアーゼも、優しく微笑んだ。


「どうか、ゆっくり休んでくださいまし」


「ありがとうっす」


 アッチムは、嬉しそうに笑った。


 こうして、リオナとアリアーゼの二人だけで世界樹を目指すことになった。


    ◇


 旅の準備を整え、村長のギルドワさんにも旅立ちの報告を済ませた後、二人はゼリアスの王都へやってきた。本の返却のためだ。


 王都に着いた二人は、図書館へ向かう途中で、思いがけない人物と出会った。


「まあ! 掃除屋のお二人さん!」


「アリアーゼ様お久しぶりです!」

「アリアも、リオナも、久しぶり!」


 アリエルとナノだった。


「お二人とも、お元気そうですわね。せっかくなのでお茶でもいかがかしら?」


 アリアーゼの提案で、四人でお茶をすることになった。


    ◇


「私達はこれからトロルの討伐にいくんだ!」


 アリエルが、明るく言った。

 その隣で、ナノがエミルちゃんを片手に胸を張る。


「まあ、相変わらずお掃除をがんばってらっしゃるのね。素敵ですわ!」


 掃除屋の二人は顔を見合わせ、それから嬉しそうに笑った。


「アリアーゼ様とリオナは旅装ですけど、どこかにいくの?」


 アリエルの問いかけに、今度はアリアーゼが胸を張った。


「伝説のまな板を探しに、エルヴス族の森へいくのですわ!」


「……よくわからないけど、アリアーゼ様は相変わらずスケールが大きいね!」


 アリエルはそう言って、困ったように笑った。


「うふふ、ありがとう! 今日はわたくしのおごりですわ!」


 アリアーゼは嬉しそうに笑うと、席を立った。


「飲み物、買ってきますわね」


「え、あ、はい」


 リオナが返事をする間もなく、アリアーゼは店のほうへ歩いていった。

 その背中を見送ってから、アリエルがリオナのほうへ顔を向ける。


「ねえ、リオナ」


「なんでしょうか?」


 何気なく返事をしたリオナだったが、アリエルの顔を見て、少しだけ姿勢を正した。


「リオナはさ、アリアーゼ様のこと、どう思ってるの」


「どう、とは?」


 リオナは動きを止めて聞き返した。


「そのままの意味だよ」


 アリエルが、にやりと笑う。


「……わたしは、ただのお世話係です」


「ふーん。それで、ほんとのところは?」


 ナノが、正面からリオナを見据えて言った。


 リオナは答えようとして、口を開きかけた。けれど、何も言葉が出てこない。

 やがてテーブルへと視線を落とした。


「…………自分でも、よく、わからないんです」


 消え入りそうな声だった。


「それに」


 リオナは視線を落としたまま、テーブルの上の両手を握った。


「アリアーゼ様は、わたしにこれ以上を求めていませんから」


 アリエルとナノが、顔を見合わせる。


「ふーん」


 アリエルは椅子の背にもたれ、腕を組んだ。


「ま、何かあったら、いつでも相談においでよ」


 そう言って、胸を張る。


「この筋では、わたしたちのほうが先輩だからね」

「そうだよ。ナノがなんでも教えてあげる」


「そういうのは、いいですから!」


 リオナが慌てて手を振った。その頬が、赤く染まっていた。


    ◇


 掃除屋の二人と別れたあと、アリアーゼとリオナは図書館へ向かった。


 図書館に着くと、リオナは借りていた本を返却するため、受付へ向かっていった。

 入口近くで待っていたアリアーゼに、一人の女性が話しかけてきた。


「こんにちは、旅のお方」


 声をかけてきたのは、ひとりの女性司書だった。


「旅装で図書館にこられるなんて、珍しいですね」


 アリアーゼは、にこりと微笑んだ。


「うふふ。そうかしら」


「差し支えなければ、どちらに向かわれるのですか?」


「うふふ。秘密ですわ」


 司書は一瞬だけ目を瞬かせ、それから小さく頭を下げた。


「そうですか。失礼いたしました。お気をつけていってらっしゃいませ」


 司書はくるりと踵を返した。そのまま、すたすたと歩いていく。

 アリアーゼは、その背中に向かって口を開いた。


「誰の手のものか存じ上げませんが、わたくしたちをずっと監視されてますわね」


 司書は足を止めずに歩いていく。


「逃げも隠れもしませんわ。こそこそせずに堂々と会いに来ればよろしいですわ」


 司書は振り返ることなく、そのまま図書館の奥へと消えていった。


「アリアーゼ様、おまたせしました。どうかされましたか?」


 振り返ると、返却を終えたリオナが戻ってきていた。


「ありがとう、リオナ。なんでもございませんわ」


 アリアーゼは、何事もなかったように微笑んだ。


「さあ、まいりましょう」


「はい!」


 二人は、エルセリルの森を目指して、王都を後にした。


 その先に待つのは、世界樹。


 そして――伝説のまな板だった。

ついに伝説のまな板の手がかりを見つけましたね!


次回――二人はエルヴス族の住むエルセリルの森へ向かいます

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