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婚約破棄された最強令嬢は、花嫁修業で世界を救います。でも、聖女の恋心には気づけません。〜アリアーゼの花嫁修業〜  作者: 遠崎カヲル
第四章 花嫁修業3 お掃除修業

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二つの王国

 ゼリアス王国の王宮執務室で、エルクードがペンを走らせていた。彼の執務机は、あいかわらず書類の山に囲まれている。そこへ、静かに扉が開いた。


「失礼いたします。エルクード殿下、少々お時間をよろしいでしょうか?」


「サリエナか。どうした」


 エルクードはペンを止め、顔を上げた。


「殿下。冒険者ギルドからの報告には、目を通されましたでしょうか」


「ああ。アンデッド大量発生事件の件だな」


 エルクードは、書類の山から一枚を手に取った。


「報告によれば、事件は一応の解決。原因は、正体不明のネクロマンサー……か」


「左様でございます」


 サリエナは、淡々と、頷いた。


「瘴気の森に、潜んでおったというのが、気になるところだな」


 そう言って、エルクードは机に肘をついた。


「サリエナ。何か続報はあるのか?」


「正体は、依然不明のままです」


 サリエナは、一呼吸置いた。


「ただ、そのネクロマンサーを撃退した者について、追加の報告が上がっております」


「ほう」


 エルクードの目つきが変わる。


「ここには、アリエルとナノ――冒険者ギルド所属の、二人組の名で報告が上がっているが?」


「同行者がいた模様です」


「まさか」


 エルクードは、身を乗り出した。


「アリアーゼ殿か」


「左様でございます」


 エルクードは、しばらく黙り込んでいた。

 やがて、口の端に笑みが浮かんだ。


「盗賊団の壊滅、フェニックスの浄化、暗黒竜の討伐……そして今度は、アンデッド事件の解決か」


 エルクードは指先で、机を軽く叩いた。


「これで、我が国への恩恵は、何度目であろうな」


「四度目でございます」


「ふむ……これだけ目立った動きをしているということは、もしや……」


 エルクードは、椅子の背に深くもたれた。


「彼女は、我が国への仕官を希望しているのではないだろうか?」


「可能性はございます」


 サリエナは、表情を変えないまま答えた。


「サリエナ」


「はい」


「一度、本人または連れの者に接触してみてくれるか」


 エルクードの目に、はっきりとした興味の色が浮かんでいた。


「かしこまりました」


 サリエナは静かに一礼し、部屋を後にした。


    ◇


 一方、こちらはグランベル王国の王宮執務室。

 シュレム王太子は、机の上に積み上げられた書類の山を前に、頭を抱えていた。


「……なんだ、この書類の山は!」


「本日の決裁案件でございます」


 執務官が、淡々と答えた。


「今まで、こんなに事務仕事が舞い込んでくることは、なかったではないか!」


「恐れ入りますが……」


 執務官は、言いにくそうに視線を逸らした。


「これまで殿下のお仕事の多くを、アリアーゼ様が引き受けていらっしゃいましたので」


「なんだと!?」


 シュレムは、目の前の書類の山を、まじまじと見つめた。


「この書類の山を、か」


「左様でございます」


「…………」


 シュレムは、しばらく黙り込んだ。

 その沈黙を破るように――別の執務官が、慌てた様子で駆け込んできた。


「殿下、ご報告でございます!」


「なんだ」


「東との交易路に出没した魔獣どもによって、交易に支障が出ております。騎士団による討伐も、うまくいっておりません」


「何? なぜだ」


「騎士団の指揮系統が混乱しております」


「グランベル王国の最強騎士団が、何をやっているのだ!」


 シュレムは、声を荒らげた。


「アリアーゼ様が抜けた穴を、埋められておりません」


 執務官は、淡々と事実だけを告げた。


「あのお方の組織の取りまとめ能力は、異常でございましたので」


「おのれ……」


 シュレムは、拳を握りしめた。


「アリアーゼ一人が抜けただけで、こんなことになるとは……」


 積み上がった書類の山を睨みつける。


「あの女も、当てつけのように職務を放棄して、旅なぞに出おって……!」


「あの……シュレム殿下」


「なんだ」


 執務官は一拍置いてから、意を決したように口を開いた。


「こんなことは申し上げたくないのですが……アリアーゼ様に、職務にお戻りいただくことをご検討されては?」


「…………」


 シュレムはすぐには応えなかった。拳が握りしめられ、肩がワナワナと震えている。長い沈黙の後に、ようやく口を開いた。


「……くそっ」


 シュレムは、苦々しげに吐き捨てた。


「考えておく」


 その時、部屋の扉が勢いよく開いた。


「殿下! シュレム殿下!」


 ナターシャだった。

 その声に、シュレムの表情から、険が取れた。


「ああ、ナターシャ。どうしたんだい」


「聞いてくださいませ! 神殿の魔術診断で、お腹のお子は男の子で間違いないそうですわ!」


 ナターシャはそう言って、目立つようになったお腹を擦った。


「おお、そうか!」


 シュレムの顔から、先ほどまでの苦々しさは、跡形もなく消えた。


「男か! でかしたぞ、ナターシャ!」


 シュレムは椅子から立ち上がると、ナターシャの手を取った。


「世継ぎだ。これで王家は安泰だな!」


「ええ、ええ。殿下のお血筋ですもの」


 ナターシャは、まだ目立たないお腹にそっと手を添えて、にっこりと微笑んだ。


「…………はあ」


 執務官はしばらく、その様子を見つめた後に、小さくため息をついた。

 書類の山は、いつ片付くのか、見当もつかなかった。


    ◇


 その頃、ゼリアス王国のラカの村では、アリアーゼとリオナが真剣な顔で向き合っていた。

意味不明な恩恵をもたらし続けるアリアーゼに、興味津々なゼリアス王国。

一方、アリアーゼが抜けたことで、少しずつ歯車が狂い始めたグランベル王国。


二つの国の行く末はいったいどうなってしまうのでしょうか。


そして次回――

アリアーゼ様に、ちょっとしたお悩みが!?

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