↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
アリアーゼの花嫁修業 〜婚約破棄された最強令嬢の無自覚スパダリムーブが聖女を射抜き、世界を救う〜  作者: 遠崎カヲル
第四章 花嫁修業3 お掃除修業

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
37/56

お掃除の免許皆伝

 ネクロマンサーが姿を消し、広間の瘴気は、嘘のように薄れていった。 瘴気が晴れると、そこに静けさが戻った。


 アリエルとナノの顔色は、アッチムのおかげですっかり良くなっていた。アッチムが結界を解くと、二人はゆっくりと身体を起こした。二人が視線を向ける先には、剣を収めながら戻ってくるアリアーゼの姿があった。


「ごめんなさい。とどめをさせず、逃がしてしまいましたわ……」


 アリアーゼが、悔しそうに言った。


「リオナ。どうかしら? あいつの存在は感じられますの?」


「いえ。闇の魔力は完全になくなりました。その代わり、この地は安全になったと判断してよろしいかと思います」


 リオナはそう言って、辺りを見回した。


 アリエルは二人のやりとりを茫然と見つめていたが、やがて興奮した様子で口を開いた。


「お嬢様! あなた、いったい何者なの? あんな実力者、見たことないんだけど!」


 アリエルが、真剣な顔でアリアーゼに詰め寄った。


「うん、すごかった!」


 ナノも、こくこくと頷く。


「アリアなんて呼んだら、失礼だよね。えっと……名前、もっと長かったよね。なんだっけ?」


 ナノがそう言うと、アリエルは驚いた表情を見せた。


「えっ? アリアって、本名じゃなかったの?」


「わたくしの名前はアリアーゼですわ。アリアーゼ・フォン・ローレンス。それがわたくしの名前ですわ」


 アリアーゼが、にこりと微笑んだ。


「……え?」


 アリエルの動きが、止まった。


「まさか……」


 目を見開く。


「グランベル最強騎士と呼ばれた……アリアーゼ様?」


 アリエルの顔が、みるみる赤くなっていく。


「まあ、一応そうですわ」


「ええええええええええええ!!!」


 アリエルは絶叫した。


「え? え? 本当にアリアーゼ様? 本物!? あ、えっと、わたしアリエルって言います。あ、あの、ずっとアリアーゼ様にあこがれてて、それで冒険者になって。え、やだ。わたし、アリアーゼ様をお嬢様とか言って、守ろうとして! は、恥ずかしい。いや、ファンなんです! サインください!」


 アリエルは壊れた。

 となりでナノがクスクスと笑っている。


「そうだよね。アリエルはずっと、アリアーゼ様に憧れてるっていってたもんね」


「ちょっと、ナノ! なんで言ってくれないの!」


「ごめん。ナノ、長い名前苦手だから」


「もうううううう!」


 そんな二人のやりとりを見て、アリアーゼとリオナは顔を見合わせた。

 そして、そろって肩をすくめて、笑ったのだった。


    ◇


 一行は、遺跡を後にして、帰路についていた。


「わあい……」


 アリアーゼのサインの入った羊皮紙を、アリエルは大事そうに両手で持っていた。頬が緩みっぱなしになっている。


「一生の宝物にする……」


 その様子を、ナノが、にこにこと眺めている。


 先頭を行くアリエルとナノの後ろで、アリアーゼとリオナが並んで歩いていた。少し離れて、アッチムが、いつもの調子でてくてくとついてくる。


 ふと、アリエルが振り返った。


「あの、アリアーゼ様。後ろの女性は何者なんですか? あの方も只者には思えないのですが……?」


「うちのことっすか?」


 アッチムが片手を上げた。


「うちは聖獣フェニックスの化身。名前はアッチムっす」


 次の瞬間。


 ぽわん、と、軽い音がして、アッチムの姿が丸っこい鳥へと変わった。羽をぱたぱたと動かし、アリアーゼの肩にちょこんと止まる。

 アリアーゼは鳥に頬を寄せて、にこっと笑った。


「……え? フェニックス……様?」


 アリエルは、その場で、完全に固まった。


「あはは。可愛い鳥さん!」


 ナノが無邪気に笑った。

 アリエルは茫然とした表情でナノを見つめた。


「お嬢様がアリアーゼ様で……助けに来てくれたのがフェニックス様で……理解が追い付かないよ。ナノは何で笑ってられるのよう!」


    ◇ 


 四人がネクロマンサーを退けてから、数日。新たなアンデッドの発生報告は、一件もなかった。


 ギルドは、慎重に様子を見た上で、事件の解決を正式に認めた。


「――ということで、報告は以上です」


 ギルドの一室で、アリエルが事件の詳細を報告していた。ギルドの上役が、腕を組んで話を聞いていた。


「ふむ……」


 上役は、しばらく、黙り込んでいた。


「そのネクロマンサーとやらの正体、気になるところだな」


「わたしたちには、正直、分かりませんでした。かなりの手練れだったのは間違いありません」


「うむ。その存在は、ゼリアス王家にも報告を上げねばなるまい」


 上役はそう言うと、視線を四人に向けた。


「それはさておき、危険な任務だったのによくやってくれたな。さすがは掃除屋コンビだ」


「いえ、わたしたちだけじゃなくて、そちらの……」


 アリエルがアリアーゼたちのほうへ目を向けた。


「いいえ」


 アリアーゼが、すかさず口を挟んだ。


「わたくしたちは、掃除屋さんの付き添いでしたのよ」


 そう言って、にっこりと微笑む。


 アリエルは、一瞬、何か言いたそうな顔をしたが、結局それ以上は何も言わなかった。


    ◇


 アリアーゼとリオナが村へ帰還するのを翌日に控えた、最後の夜。


 冒険者ギルドの一室で、四人は向き合っていた。


「ねえ。ずっと聞きたかったんだけど」


 アリエルが、口を開いた。


「アリアーゼ様は、いったい、このゼリアス王国で、何をなさっているんですか」


 アリアーゼは、少しの間も置かず、にっこりと笑った。


「花嫁修業ですわ!」


「……えっと?」


 アリエルの表情が、固まった。


「あの、何のために修業を?」


「もちろん、立派なお嫁さんになるためですわ!」


 アリエルは口をぱくぱくさせている。それ以上、言葉が出てこないようだった。


(この反応、久しぶりですね)


 リオナはある種の懐かしさを感じていた。


「今回はお掃除の修業のために同行させていただきましたの。とても参考になりました。約束のお礼ですわ」


 アリアーゼはそう言って、机の上に金貨を並べた。


「本当にお世話になりましたわ。お納めくださいな」


「い、いただけないです!」


 アリエルが、慌てて、両手を振った。


「ギルドからは十分に報酬も貰えましたし、逆にわたしたちが助けられてしまって……」


「まあまあ、そう仰らずに」


 アリアーゼが、金貨をアリエルの手に、そっと握らせた。


「とっておいてくださいな」


 アリエルはしばらくの間、手の中の重みを確かめるように見つめていた。


「アリアーゼ様から、いただいた金貨……使えないよう……」


 アリエルはちょっぴり情けない声を出した。


「よし。せっかくだから、家宝にしよう」


 アリエルがそう呟く横で、ナノが一枚の金貨を空中に弾いた。くるくると落ちてくる金貨をパシッと手で受け止めると、無邪気に言った。


「ナノは、使っちゃうけどね」


「ちょっと! ナノ!」


「えへへ」


 その様子を見て、アリアーゼとリオナは、顔を見合わせて、小さく笑った。


    ◇


 王都の門の前で、四人は、向き合っていた。


「本当にお世話になりましたわ。お掃除のプロとして、これからもお掃除をがんばってくださいね」


 アリアーゼはそう言ってにこやかに微笑んだ。


「そんな! それを言ったら、アリアーゼ様たちも立派な掃除屋さんだったよ!」


 アリエルが、笑いながら言った。


「リオナ、聞きまして? お掃除の、免許皆伝ですわ!」


 アリアーゼが、目を輝かせて、両手を頬に添えた。


「それは違うと思います」


 リオナが、静かに、突っ込んだ。


 その後、アリアーゼとリオナは、手を振りながら王都の門を出ていった。


 二人を見送った後、アリエルとナノは、王都の通りをしばらく無言のまま歩いていた。


「……アリアーゼ様か。噂に違わず、すごい人だったね。ちょっぴり変な人だったけど」


 アリエルが、ぽつりと言った。


「うん」


「ナノ、わたしたちも、追いつけるように、頑張ろうね」


「そうだねっ!」


 しばらく、歩いてから、ナノが、ふと、口を開いた。


「でもさ。アリアとリオナ、あの二人って、どういう関係なんだろうね」


「え?」


「アリアは、よく分からなかったけれど……たぶん、リオナは……」


 ナノが、言葉を濁す。


 アリエルは、少し考えてから、ふっと笑った。


「ふふ。そこは、わたしたちの勝ちだよね」


 それから、二人は指を絡めるようにして手を繋いだ。


 夕暮れの光が、王都の通りに、長い影を落としていた。

これにてお掃除編完結です。逃がしてしまったネクロマンサーの正体がきになる所ですね。

次回から、伝説のまな板編に突入します。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。