↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
アリアーゼの花嫁修業 〜婚約破棄された最強令嬢の無自覚スパダリムーブが聖女を射抜き、世界を救う〜  作者: 遠崎カヲル
第四章 花嫁修業3 お掃除修業

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
36/55

ここまでですわ

 リオナは、必死に結界を維持し続けた。

 しかし、結界の維持は、魔力の消費が大きい。このままでは、魔力が底をついてしまう。


 アリアーゼへ視線を向けると、アリアーゼも今まで見たことのない焦りの表情を浮かべていた。


 アリエルとナノは、もう動けない。


 (――どうすればいいの。誰か助けてっ!)


 リオナは心の中で祈った。


(誰でもいい。誰かっ! 創世神様! 精霊様! 聖獣様――)


「ほーい。聖獣様が来たっすよー」


 突然、のんびりした声が響いた。

 リオナが振り返ると、後ろの方から、てくてくと、一人の女性が歩いてくるのが見えた。


 丈の短い上着からは、健康的なおへそがのぞいている。動きやすそうな短パン姿。赤髪のショートヘアーで、どこか陽気な雰囲気だ。


 この状況にはまるで似つかわしくない、緊張感の欠片もない足取りだった。


「アッチム!」

「アッチム様!」


 アリアーゼとリオナは、同時に声を上げた。


「あらら、大ピンチじゃないっすか」


 場違いなほど、間の抜けた声だった。

 瘴気の立ち込める広間を、アッチムは悠然と歩いてくる。


 アンデッドたちは、アッチムに近づけない。まるで道を作るように、アンデッドの集団が左右に割れていった。


 やがてアッチムは、リオナの結界とネクロマンサーの間に立った。そして、ネクロマンサーを見据える。その表情から、いつもの軽さが、すっと消えた。


「あんた」


 アッチムが、低く、確かめるように呟いた。


「うちが闇落ちしかけたの、あんたが原因っすね」


 ネクロマンサーが、初めて、わずかに眉を動かした。


「貴様はフェニックスの化身か。こちら側に取り込んでやろうと思ったが……」


 ネクロマンサーが、ゆっくりと目を細めた。


「残念だったっすね。後ろの二人に助けてもらったっす」


 アッチムがにやりと笑う。一瞬、赤い光がその瞳に宿った。


「さてと。あんた、冥王の関係者っすか?」


「ククク。さて、な」


 ネクロマンサーは、答えをはぐらかした。


「まあ、いいっす。今は、そんな話をしてる場合じゃないんで」


 アッチムが、両腕を大きく広げた。その瞬間、大きな赤い翼が、羽ばたいたように見えた。


 熱を帯びた風が、広間を駆け抜け、結界を取り囲んでいた濃密な瘴気が、一気に吹き払われた。


「リオナ、今っす!」


「お任せを!」


 アッチムの掛け声に、リオナは即座に反応した。結界を解くと同時に、新たな詠唱に入る。


「大いなる光よ、集え。闇を祓いて、その身を浄めよ」


 アンデッドの集団へ向け、次々と光が放たれた。

 周囲を埋め尽くしていたアンデッドが崩れ、砂となって消えていく。


「この子たちは、うちが引き受けるっす」


 アッチムは、アリエルとナノに駆け寄ると、そばに膝をついた。


「うう。あなた……誰?」


 アリエルが、朦朧とした目で、アッチムを見上げた。


「味方っす。うちのことは、気にしないでいいっすよ。すぐに楽になるっすからね」


 アッチムはアリエルとナノを守るように結界を張ると、二人にそっと手をかざした。二人の顔色が、みるみるうちに戻っていく。


「さあ」


 アッチムが、アリアーゼとリオナを見た。


「こっからは、うちらのターンっすよ! 瘴気は完全には晴れないっすけど、問題ないはずっす」


「アッチム様。一つ、伺ってもよろしいですか」


 リオナが、アッチムに問いかけた。


「なぜ、わたしとアリアーゼ様は、瘴気の影響をあまり受けないのでしょうか?」


 アッチムが、にやりと笑った。


「気づいてないんすか?」


 そして、何でもないことのように言った。


「あんたたち、毎日うちの卵を食べてるじゃないっすか。聖なる卵っすよ?」


 リオナは、思わず、アリアーゼと顔を見合わせた。あの卵にこんな力があったなんて。


「うふふ。さすがは最高の卵ですわ。アッチム様々ですわね」


 アリアーゼが、満足そうに頷いた。


「まあ、そんなことより、あいつをなんとかするっす」


 アッチムの視線が、玉座の上のネクロマンサーへ向く。


「たぶん、あいつ、めちゃくちゃ強いっすよ」


 アッチムが、静かに続けた。


「相当な手練れっすね。今のうちの力じゃ、敵わなそうっす」


「そんな……」


 アッチムの言葉に、リオナは思わず息を呑んだ。


「でも」


 アッチムが、にっと笑う。


「こっちにも、伝説級に強い人がいるっすからね」


 視線が、アリアーゼへ向いた。

 アリアーゼはアッチムと視線を合わせると、何も言わずにニコッと笑った。


「あいつには普通の剣は効かないっすね。リオナ。アリアーゼの剣に、直接、浄化の力を乗せられるっすか」


「――はい」


 リオナが、迷いなく頷いた。


 アリアーゼが、剣を抜く。リオナが、その刃に、両手をかざした。


「大いなる光よ、集え。剣を覆いて、加護となれ」


 剣身が、淡い光を帯びていく。


 アリアーゼは、剣を構え、静かに息を吐いた。

 その表情から、柔らかさが消えた。


「わたくしの大切な人たちを」


 剣先が、ネクロマンサーへ向けられる。


「よくも、危険にさらしてくださいましたわね」


 声が、低く、鋭くなった。


「覚悟なさい!」


「ほう」


 ネクロマンサーが、玉座から立ち上がった。


「女、貴様ごときに、何ができる」


 その瞬間、アリアーゼが地を蹴った。ネクロマンサーとの距離が一瞬で縮まった。


「――なっ」


 その速度に、ネクロマンサーの目が、初めて見開かれた。


    ◇


 ネクロマンサーの手から、闇の炎の矢が、幾筋も放たれた。


 アリアーゼは、最小限の動きだけで、それをかわしていく。あまりにも無駄がなく、あまりにも速い。矢が、まるでアリアーゼの身体をすり抜けているようにしか見えなかった。


 間合いに入る。

 剣が、閃いた。


 一撃、また一撃。舞うような剣技が、途切れることなくつながっていく。一つの動作が、次の攻撃へ、一切の無駄なく移っていった。


 ネクロマンサーは、受けるだけで精一杯だった。


 聖獣フェニックスの化身をして「相当な手練れ」と言わしめた存在が、今や防戦一方に追い込まれていた。浄化の光をまとった刃が、闇の靄を、一筋、また一筋と、削り取っていく。


 やがて。


 ネクロマンサーの剣が、大きく弾かれた。


「ぐ……っ」


 膝が、地面につく。

 アリアーゼが、その眼前に、剣先を突きつけた。


「ここまでですわ」


    ◇


 結界の中。アッチムの力で回復しつつあった二人は、アリアーゼの動きに、ただ目を見張っていた。


「う、嘘でしょ……」


 アリエルが、呆然と呟いた。


「お嬢様……? 何、あの動き……」


「す、すごいね……」


 ナノも、目を見開いたまま、動けずにいる。


「ナノ、全然、見えなかったよ……」


 結界に守られながら、二人は、ただ、その光景に見入っていた。


 これまで二人が見てきたアリアーゼは、守られるお嬢様だった。その彼女が、今、目の前で別次元の強さを見せている。


 二人には、その事実が、まだうまく飲み込めなかった。


 リオナは、静かに、アリアーゼの姿を見つめていた。

 驚きは、あった。だが、それ以上に、込み上げてくるものがある。


(ああ。アリアーゼ様の本気が、これなのですね)


 剣を構える横顔。踏み込む足運び。無駄のない、一つ一つの動き。


 ――綺麗。


 リオナは、それだけを思った。アリアーゼという人の、まだ知らなかった一面を見た、その喜びが、胸を満たしていた。


    ◇


 膝をついたまま、ネクロマンサーは、しばらく動かなかった。

 やがて、黒い靄が、その輪郭を覆い、揺らめき始めた。


「ククク……この千五百年を、無駄にするわけにはいかぬ」


 その姿が、少しずつ、闇に溶けていく。


「ここは、潮時だな」


「逃がしませんわ!」


 アリアーゼが剣を振り下ろす。


 だが――


 ガキンッ!


 刃が黒い霧に触れた瞬間、何かに弾き飛ばされた。


「……っ!」


 アリアーゼが一歩、後退する。

 黒い霧の向こうで、ネクロマンサーの姿がぼやけていく。


「お前は、いい女だ」


 最後に、緑の双眸だけが、アリアーゼを見つめた。


「わが妃に、ふさわしい」


 言葉を残し、ネクロマンサーの姿は、闇の中へと消えていった。


 あとには、静寂だけが、残された。

フェニックスの加護とアリアーゼの力で、ネクロマンサーを退散させる事に成功しました。

次回、お掃除編の完結です!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。