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アリアーゼの花嫁修業 〜婚約破棄された最強令嬢の無自覚スパダリムーブが聖女を射抜き、世界を救う〜  作者: 遠崎カヲル
第四章 花嫁修業3 お掃除修業

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闇の根源

 石段を下りきると、そこは広い地下通路だった。

 壁には、朽ちた紋様が刻まれている。かつて何かの拠点だった名残が、あちこちに残っていた。


「ここまでは、静かだね。ただ、こういう時こそ油断は禁物だよ」


 アリエルが、松明をかざしながら周囲を見渡す。


「うふふ。さすがは一流の掃除屋さんですわ」


 アリアーゼが、静かにほほ笑んだ。


 通路を進むほどに、空気が変わっていく。肌にまとわりつくような、粘つく気配を感じる。松明の炎が、時折、不自然に揺らめいた。


「闇の魔力が濃くなっています……」


 リオナはそう言って、眉を寄せた。


 そのときだった。


 通路の奥から、何かを引きずるような音が聞こえてきた。


「……来るよ」


 アリエルが身構える。

 霧の向こうから、数体のアンデッドが姿を現した。


「ナノ、行くよ!」


「うん!」


 二人は即座に武器を構えると、アンデッドに向かって走り出した。

 その横で、アリアーゼがふと周囲を見回した。


「リオナ……瘴気も少しずつ、濃くなっているように思いますわ」


「瘴気……ですか?」


 リオナは周囲の空気を探った。先ほどまでと、違いは分からない。

 でも、アリアーゼが言うのなら、そうなのかもしれない。


「リオナ、強い瘴気への対策はあるのかしら?」


 アリアーゼが問いかけてくる。


「はい。わたしが結界を張れば、防げると思います。ただ、結界の維持には魔力を消費しますので、浄化の力と両立はできません」


「そう……」


 アリアーゼは、静かに頷いた。


    ◇


 アンデッドを片付け、四人は先へと進んだ。進むほどに、闇の魔力は濃さを増していく。


「うん。この先だね」


 アリエルの声にも、緊張が滲んでいる。


 やがて、通路の先に、大きな扉が見えてきた。その奥から、これまでよりも濃い瘴気が漏れ出している。


「……この先に行く前に、少し休もう」


 アリエルが、足を止めた。


「今までとは雰囲気が違うからね。腹ごしらえ、しておいたほうがいい」


 四人は扉の手前の壁際に腰を下ろした。それぞれが、携帯食を取り出す。


「はい、ナノの分」


「ありがと、アリエル」


 アリエルがナノに手渡したのは、焼き菓子のような携帯食だった。ナノは嬉しそうにかじりつく。ぽろり、と、その欠片が頬にこぼれた。


「ナノ、ほっぺについてるよ」


 アリエルが何気なく身を寄せる。

 そして――頬に残った欠片を、そっと口で取った。


「ちゅむ」


「ん。アリエル、ありがとっ」


 ナノが、にこっと笑った。アリエルも笑い返す。

 そのまま二人は、しばらくの間、見つめ合っていた。


「まあ、まあ! お二人の関係、とっても素敵ですわ!」


 アリアーゼが感嘆の声をあげた。


 その瞬間、アリエルはハッとした表情を浮かべると、ギギギと機械のような動きで振り返った。


「……あ」


 アリエルの顔が、みるみるうちに赤くなっていく。


「ふ、二人きりだと勘違いして、つい……!」


「うふふ」


 アリアーゼが、にこやかに頷いた。


「遠慮なさらずに。いつも通りにしてくださってよろしくてよ」


「そうだよ、アリエル。いつものことじゃん」


 ナノが何気なく追い打ちをかける。


「ナノ、やめてっ!  恥ずかしいからっ!」


 アリエルはそう言って、両手で顔を覆った。


 リオナは、そんな三人のやりとりを見つめていた。

 その光景を眺めているうちに、いつしかリオナの脳裏には、別の光景が浮かんでいた。


    ◇


『アリアーゼ様、頬に欠片がついてますよ』


『あら、恥ずかしいわ。リオナ、取ってくださる?』


『もう。しょうがないですねー』


 アリアーゼの頬に、そっと顔を寄せる。


『ちゅむ』


 アリアーゼの頬の食べ残しを口で取った。


 『まあ……今は、食事中ですのよ』


 アリアーゼが、恥ずかしそうにはにかんだ。

 それからアリアーゼが、がばっと覆いかぶさってきた。


『うふふ。それでは、わたくしがリオナをいただきますわ』


『お召し上がりください。アリアーゼ様――』


「リオナ! リオナ!」


「はっ!」


 アリアーゼに呼ばれて、リオナは勢いよく顔を上げた。


「リオナ! よだれが垂れてますわよ。これでお拭きなさい」


「す、すみません……」


 リオナはハンカチを受け取ると、急いで口元を拭った。


    ◇


「……さて」


 アリエルが立ち上がった。まだ少し頬が赤い。

 リオナも立ち上がった。耳まで赤い。


「気を取り直して、行こう」


 四人は、扉の前に立った。アリエルが、扉に手をかける。


「開けるよ」


 重い音を立てて、扉が開いた。


 扉の奥には長い通路が続いていた。通路の先に、光が見える。松明の光ではない。緑がかった、不気味な燐光だった。


 四人は、その光の方へと歩を進めた。やがて視界が開けた。


 そこは、地下とは思えないほどの巨大な空間が広がっていた。床には巨大な魔法陣が広がっている。魔法陣の中央には、玉座のような椅子が据えられていた。


 ――そして、その上には何者かが、悠然と腰掛けていた。


 黒いフードを目深に被り、その下から、輝くような金の髪がこぼれていた。整った顔立ちが、フードの陰から覗く。


(エルヴス族……?)


 リオナは、一瞬、そう思った。だが、すぐに、違うと分かった。

 フードの奥の双眸に、邪悪な光が宿っている。その瞳には、生者の温度がなかった。


「――客か」


 低く、地の底から響くような声だった。

 その声に圧倒され、誰も言葉を発することができず、立ち尽くした。


 ただ一人、アリアーゼだけが、一歩前へ出た。


「アンデッド大量発生の原因は、あなたですわね。何者ですの?」


 アリアーゼが、真っ直ぐに問いかけた。


「我は死人占い師。ネクロマンサーとでも呼んでもらおうか」


 男はそう名乗ると、愉悦を含んだ笑みを浮かべた。

 その男――ネクロマンサーは、四人をゆっくりと見回した。


「お前たち程度では、我は倒せぬ」


 ネクロマンサーが両手を静かに広げた。その瞬間、ネクロマンサーを中心として、濃密な瘴気が一気に噴き出した。


「が、はっ……!」


 アリエルが、真っ先に膝をついた。


「な、なに、これ……」


 ナノも、続いて崩れ落ちる。


 これまで感じてきた瘴気とは、比較にならない濃さだった。アリエルとナノは、肺に焼けるように熱さを感じていた。力が入らず、思考すらまともに働かなくなった。


「リオナ!」


 アリアーゼが叫ぶと、リオナは即座に応じた。


「お任せを!」


 リオナは両手を頭上に掲げた。


「大いなる光よ、集え。聖なる繭となりて、我らを覆え」


 光の障壁が展開され、ドーム状の結界が、四人を包み込んだ。押し寄せていた瘴気が、結界の外側でぴたりと押し留められる。


 間一髪だった。アリエルとナノは、結界の中で、かろうじて息をついている状態だった。


「ほほう。瘴気を遮断する結界を張るとは」


 ネクロマンサーが、感心したように呟いた。


「なかなかの才を持っているようだな、聖女よ」


「くっ!」


 リオナは、答える余裕もなかった。結界を維持することに、全神経を集中している。


「ククク。しかし……」


 ネクロマンサーが、口の端を歪めた。


「いつまで、もつかな」


 ネクロマンサーが指を鳴らした。

 その瞬間、周囲の床から、次々とアンデッドが湧き出してくる。数えきれないほどの群れが、たちまち結界を幾重にも取り囲んだ。


 骨の手が、結界に打ちつけられる。

 アンデッドたちは、結界の中には入ってこられない。だが、リオナはそれを維持することに精一杯で、動くこともできなかった。


「ククク。余興だ」


 ネクロマンサーは、玉座に深く腰掛け直した。


「おまえたちの絶望が、我が糧となる」


 完全に、勝利を確信した目だった。


 アリエルとナノは、息も絶え絶えだった。リオナは結界を維持するので精一杯だ。アリアーゼは、剣を構えたまま、打開策を探すが、何も見つからなかった。


 四人は、絶体絶命に追い込まれた。

ネクロマンサーによって、4人は追い込まれてしまいました。

次回、4人の運命は!

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