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婚約破棄された最強令嬢は、花嫁修業で世界を救います。でも、聖女の恋心には気づけません。〜アリアーゼの花嫁修業〜  作者: 遠崎カヲル
第四章 花嫁修業3 お掃除修業

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瘴気の森へ向かいましょう

 宿の湯殿は、四人で入るにも十分な広さがあった。

 リオナが衣服を脱ぐと、その胸元にアリエルとナノの視線が釘付けになった。


「ナノ! すごいね!」


 アリエルが目を丸くした。


「うん。ナノ、触ってみたい!」


 ナノが真顔で頷いた。


「ちょっと!!」


 リオナは慌てて、両腕で胸元を隠す。


「なんで? すごいなあって思っただけなのに」


 ナノが不満そうに口を尖らせた。


「そういう問題じゃないんです!」


    ◇


「お世話になっているお二人に。プレゼントですわ」


 アリアーゼが小さな包みを差し出した。


「これは……?」


 アリエルが包みを開くと、上品な香りが湯気に混じって広がった。


「わあ、いい匂い!」


 アリエルが目を輝かせる。


「わたくしのお気に入りの石鹸ですの。よろしければ」


「ありがとう、アリア。大事に使うね。やっぱりアリアはお嬢様なんだね!」


 アリエルは石鹸を手の平に乗せて、大きく息を吸った。


「ナノ! これ、すごい石鹸だよ。ほら」


「ほんとだ! すごくいい匂い。アリエル! 先にわたしが洗ってあげるね!」


 ナノは石鹸を受け取ると、泡を立て始めた。


「泡もすごくキメ細かくて、いい感じだね」


 ナノはそう言って、泡をアリエルの背中に滑らせた。ナノの手の平が、すべすべとアリエルの素肌を滑る。


「ちょっと、ナノ! くすぐったいよう!」


 アリエルは身体をくねらせるが、ナノの手は止まらない。


「ああん。ひゃああん!」


 アリエルの声が、湯殿に響いた。


「そんな声出しちゃって。アリエルは変態さんかな?」


 ナノが真顔で首をかしげた。


「ち、ちがっ……! これは、その……!」


 アリエルは真っ赤になって、口をパクパクさせた。


「まあ、まあ、お二人は本当に仲がよろしいのね」


 少し離れた場所で、それを眺めていたアリアーゼが、にこやかに頷いた。

 そして、リオナに向き直った。


「では、わたくしがリオナを洗って差し上げるわね」


「え、あ……はい」


 リオナが答える間もなく、石鹸を泡立てたアリアーゼの手が、背中に伸びてきた。


「うふふ。きれいにして差し上げますわ……」


 アリアーゼの手が滑る。背中に添えられていた手が、自然と前の方へ滑ってきた。


「ちょっと! アリアーゼ様!」


 リオナが小声で振り返った。


「なんだか、お胸ばかり洗ってませんか?」


「あら」


 アリアーゼは悪びれもせず、頬に手を当てた。


「なんだか、触りたくなってしまいましたのよ」


「……変態さんですか!」


 リオナの叫び声が、湯殿に響き渡った。


    ◇


 翌日。

 瘴気の森は、噂に違わず、不気味な場所だった。


 木々は枯れているわけではないのに、どこか色を失って見える。地面を覆う霧は、灰色がかっていて、足元にまとわりつくように揺れていた。


「わたし、ここに来るのは初めてだよ」


 アリエルが辺りを見回しながら言った。


「ナノもだよ。禁足の地だからね」


 ナノが、鼻をひくつかせる。人の手が入らない森の独特のにおいがする。

 それと合わせて、かすかに漂う瘴気の嫌な感覚が、身体にまとわりつく。


「うーん。確かに、ちょっとふらつくかも」


「わかる。ナノも、頭がぼーっとする」


 二人は顔を見合わせた。


「でも、これくらいなら平気だね。ナノも動ける?」


「うん。大丈夫そう」


 二人で頷きあう。それから、アリエルが振り返った。


「お嬢様たちは、大丈夫? 瘴気で、つらくない?」


「問題ありませんわ!」


 アリアーゼが元気よく頷いた。顔色も、足取りも、いつもと変わらない。


「リオナは?」


「わたしも……特に問題はありません」


 答えながら、リオナは首をかしげた。ふらつくどころか、何も感じない。

 隣を歩くアリアーゼを見るが、そちらも息一つ乱れていない。


 二人とも、平気すぎる気がする。アリエルとナノでさえ、多少の影響を受けているというのに。


 なぜ、自分たちには何も起きないのだろう。その理由に、リオナはまだ気づいていなかった。


    ◇


 森の奥へ進むにつれ、空気が重くなっていく。

 しばらく進んだ所で、アリエルが、ふと足を止めた。


「……何か、いやな感じがする」


 アリエルがあたりを見回す。


「わたしも、感じます」


 リオナも、足を止めて周囲を警戒した。


 邪悪な魔力が、森の奥から流れてくる。瘴気とも違う、じっとりとした、粘つくような気配だった。


「向こうの方からだね……」


 アリエルが呟く。


 邪悪な魔力の発生元を目指し、四人は歩き出した。


 その時だった。


 行く手の霧の中からうめき声が響き、何十体ものアンデッドが、次々と姿を現した。

 同時に、地面がボコッボコッと盛り上がる。新たなアンデッドが地中から這い出してきた。


「多いね……!」


 ナノがエミルちゃんを構える。


「お嬢様は下がってて! リオナ! お嬢様の護衛をお願い」


 アリエルが叫んだ。


「わ、わかりました!」


 リオナはアリアーゼの前に立った。


    ◇


 アリエルとナノが、アンデッドの群れへ躍り込んだ。


 炎の矢が飛び、鈍器が唸る。アリアーゼのお守りから解放された二人の連携は、以前見た時とは比にならない。数の多さなど問題にしないとばかりに、次々とアンデッドを蹴散らしていく。


 嵐のような戦闘が、あっという間に静まった。


「お嬢様たち、大丈夫だった?」


 アリエルが振り返ると、そこで言葉を止めた。


 アリアーゼとリオナの周りには、かなりの数のアンデッドの躯が転がっていた。


「……あれえ?」


 ナノが、こてんと首をかしげる。


「ヒュー。リオナ、やるねえ」


 アリエルが感心したように口笛を吹いた。


「浄化の力は、使わなかったんだね。魔力の節約?」


「あ……ええ。まあ」


 リオナは頬をかきながら、横目でアリアーゼをちらりと見た。


 アリアーゼは、そっと剣を鞘に収めている。

 アリエルとナノは、それに気づいていないようだった。


    ◇


 地下へ続く入り口を見つけたのは、それからしばらく経った頃だった。

 崩れかけた石段が、闇の奥へと続いている。邪悪な気配は、間違いなくその先から漂っていた。


「……この中だね」


 アリエルが、低く呟いた。

 四人は顔を見合わせ、頷き合う。


 アリエルが松明に火をつけ、アリアーゼへ手渡した。もう一本は、アリエル自身が手にする。橙色の炎が、暗い石段をぼんやりと照らし出した。


「みなさん、参りましょう!」


 アリアーゼが迷わず進もうとする。


「ちょっと! 危ないから、お嬢様はわたしたちの後ろからついてきて! リオナは最後尾を警戒して!」


 アリエルが最前列へ飛び出し、ナノがその後に続いた。


 四人は、石段を下り始めた。

アリエルとナノが目を丸くするくらいの形と大きさ! アリアーゼは役得ですね。

次回、いよいよアンデッド大量発生事件の核心へ!

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