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アリアーゼの花嫁修業 〜婚約破棄された最強令嬢の無自覚スパダリムーブが聖女を射抜き、世界を救う〜  作者: 遠崎カヲル
第四章 花嫁修業3 お掃除修業

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お掃除屋さんは大忙し!

 次の朝、四人は王都の郊外へ向かった。


「以前、アンデッドが出現した場所を、順番に見て回ってるの」


 アリエルが、地図を指差しながら説明する。


「何か手がかりがあれば、いいんだけど」


 枯れた草地。踏み荒らされた地面。焦げたような跡。四人は、それらを一つずつ確認しながら歩いた。


「ここ一ヶ月、状況はどんどん悪くなってる」


 歩きながら、アリエルが続ける。


「以前は、アンデッドの発生は、一週間に一度あるかないかくらいだった。でも……最近は、毎晩のようになってきてる」


「毎晩ですか……」


 リオナが眉を寄せた。


「だから、斥候の一団が見回りを強化してる。発生を見つけたら、使い魔が知らせてくれる手筈になってるの」


「まあ! それは大変ですわ!」


 アリアーゼが目を丸くした。


「お掃除屋さんは大忙しですわね。お掃除のしがいがありますでしょう?」


「あはは。アリアって、面白い事を言うね!」


 ナノが、愉快そうに笑った。


    ◇


 昼過ぎに、四人はいったん宿へ戻った。


「アンデッドの発生は、夜が本番だからね。今のうちに、少し休んでおこう」


 アリエルの言葉に、それぞれが部屋へ引き上げた。


 アリアーゼとリオナは、宿のひと部屋を二人で借りていた。窓辺に腰掛けたアリアーゼが、ぽつりと呟いた。


「一言で、お掃除、といっても……地道で大変な作業ですわね」


「アリアーゼ様。一応、言っておきますけど。お掃除、というのは……」


 言いかけて、リオナは言葉を飲み込んだ。 アリアーゼの表情が、いつになく真剣だった。

 リオナは、その表情を覚えていた。盗賊団を壊滅させた時の、あの表情と同じだ。


「リオナ」


「は、はい」


「これだけ、アンデッドが湧く、というのは……普通じゃありませんわね」


「そ、そうですね」


 リオナは、思わず目を見開いた。


「いずれ、大きな被害が出る前に……何とかしないといけませんわ。わたくしたちも、できる限り協力しないと」


 リオナは、そっと目を伏せた。


(ああ、これだから……アリアーゼ様には人として惹かれてしまうんだ)


 リオナは小さく笑顔を浮かべた。

 

    ◇


 夕方、日が傾き始めた頃。

 四人が一緒の部屋で待機していると、小さな鳥が窓辺に飛んできた。使い魔だ。


「来た」


 アリエルは足元にくくりつけられた羊皮紙の切れ端を外し、目を通した。


「アンデッドの発生確認。森の東側だって」


 アリエルが立ち上がった。


「ナノ! 準備は?」


「えへへ。わたしもエミルちゃんも、いつでもオッケーだよ!」


 ナノが白銀色の杖を掲げる。

 アリエルは一つ頷き、振り返った。


「お嬢様たちは?」


「すぐにでも出発できますわ」


「よし! いくよ!」


 アリエルの掛け声と共に、四人は部屋を後にした。


    ◇


 王都の郊外の、森の中へ来た。

 日は既に沈んでおり、辺りは真っ暗だ。アリエルとアリアーゼの持つ松明だけが、闇を照らしている。


「いた」


 アリエルが小さく呟いた。

 松明の明かりの先に、スケルトンが二体。その奥には、グールが一体、ゆっくりとこちらへ歩いてくる。


「あのくらいなら、楽勝だね」


 アリエルが笑った。

 その瞬間だった。


 ――ボコッ。


 足元の地面が、不気味に盛り上がる。


 ボコッ、ボコッ、ボコッ。


 あちこちの土が膨れ上がり、腐った腕が地中から突き出した。


「……っ!?」


 次々と、土の中から、骨の体、腐肉をまとった体が這い出してくる。アンデッドの放つ腐臭が、風に乗って漂ってきた。


「わお。予想外の歓迎じゃん! 文字通り骨が折れそうだね。お嬢様たちは、ちょっと離れてて!」


 アリエルはそう言って前へ出ると、ナノへ視線を向けた。


「わたしは、お嬢様たちを守りながら、後ろから支援する。ナノ、前を頼める?」


「まかせて!」


 言い終わると同時に、ナノは前線へ駆け出し、エミルちゃんを大きく振りかぶった。


「たあっ!」


 一気に踏み込み、先頭のスケルトンへ躍りかかる。


 ゴッ。


 鈍い音とともに、スケルトンの頭部が粉々に砕け散った。


「す、すごい……」


 リオナが思わず呟いた。あの一撃は、杖というより立派な鈍器だ。


「アリエル、右っ!」


 ナノが振り向きながら指をさす。


「見えてるよっ!」


 アリエルが指先を翻す。詠唱すらほとんど聞き取れないほどの速さで、炎の矢が放たれた。矢は正確に、三体のグールを貫いて消し飛ばした。


「まあ!  お見事ですわ!」


 アリアーゼが拍手を送る。それから一歩、前に進み出た。


「わたくしも、お手伝いを――」


「お嬢様は危ないから、下がってて! 危なくなったら、ちゃんと守るから!」


 アリエルが振り返らずに鋭く制した。


「……ごめんなさい。お掃除のお邪魔ですわね」


 アリアーゼはしゅんとして、素直に後ろへと下がった。

 リオナは、隣でその様子を見ながら、ちょっとだけ吹き出しそうになった。


    ◇


 戦況が、少しずつ厳しくなってきた。


 ナノが前線でアンデッドを次々と打ち砕いていく。しかし、打ち漏らしたアンデッドが、少しずつ後方へ流れ始める。

 前線だけで食い止めるには、あまりにも数が多すぎた。


 お嬢様たちに危害が及ばないよう、アリエルは必死に打ち漏らしたアンデッドを迎え撃っていた。


「まいったね。お嬢様のお守りまであるから、ずいぶんきつい依頼になっちゃったな」


 アリエルが小さくぼやいた、その時だった。

 

「アリエル! 右後ろ!」


 ナノが叫んだ。


 アリエルがとっさに振り向く。いつの間にか、死角から新たなアンデッドの集団が迫っていた。


 アリアーゼを守るように、アリエルはその前へ飛び出した。

 先頭のグールが腕を振り下ろす。アリエルは身をひねってそれをかわすが、鋭い爪がアリエルの左腕をかすめた。


「痛っ! まずい、囲まれる!」


 アリエルの脳裏に、最悪の事態がよぎった。


 その時。


 リオナが一歩前に出ると、迷わず両手を掲げた。


「大いなる光よ、集え。闇を祓いて、その身を浄めよ」


 リオナの手から光が放たれた。アリエルを取り囲もうとしていたアンデッドが、一斉に崩れ、砂となって消えていった。


「わお。助かった!」


 アリエルはすぐに体勢を立て直し、迫るアンデッドへ魔法を放つ。


「ナノ!」


「うん!」


 ナノも前線から駆け寄ると、打ち漏らしたアンデッドをロッドで次々と打ち砕いていく。リオナも二人の後方へ回り込んだ。


「右から来ます!」


 リオナの浄化の光が走り、アリエルの魔法が撃ち抜く。

 さらに、その脇をすり抜けようとした一体を、ナノのロッドが豪快に叩き砕いた。


 三人は自然と息を合わせ、押し寄せるアンデッドを次々と倒していく。

 やがて最後の一体が砂となって崩れ落ちると、森は静寂に包まれた。


「やれやれ。なんとか一段落したみたいだね」


 アリエルが汗をぬぐいながら、こちらへ戻ってくる。


 その後ろから、ナノもやってきた。あれだけ動いていたのに、髪も服装も乱れていない。息も切らしていなかった。


「お二人とも、すごいですね」


 リオナは感心したように二人を見た。


「いや、リオナもすごかったよ。あんな浄化魔法、初めて見た。もしかして、あなた、聖女様?」


 アリエルが感心したように問いかけた。


「ええと、聖女修業をしていたことはありますけど……。まだまだ未熟です」


 リオナは少し照れくさそうに言った。

 アリエルとナノは顔を見合わせると、笑い出した。


「なんだあ。言ってよ! リオナに手伝ってもらったら、もっと簡単だったよ!」


「あはは。そうだね」


 アリエルとナノはお腹をかかえた。

 リオナは困ったように笑うと、申し訳なさそうに口を開いた。


「すみません。あまり出しゃばらないようにしていたので……」


 ちょうどその時、アリアーゼが三人の所へ駆け寄ってきた。


「まあ! まあ! まあ! みなさん素晴らしいわ! 立派なお掃除屋さんですわね!」


「でしょ? ナノとエミルちゃんのこと、もっと褒めていいよ!」


 ナノはエミルちゃんを高く掲げ、胸を張った。

 アリアーゼは目を輝かせながら、コクコクと頷く。

 

 アリエルが、ふっと笑みをこぼす。リオナも、つられて小さく苦笑いした。


    ◇


 森に静寂が戻った。

 四人で荷物を整理していると。


「いたっ!」


 アリエルが小さく声を上げた。

 三人が振り返ると、アリエルが腕を押さえていた。


「あはは、ごめん。さっきアンデッドの爪が、ちょっとかすったみたい」


 そう言って笑うアリエルの腕には、血が滲んでいた。

掃除屋さんの実力は本物でした。でもアリエルの怪我が気になります。

次回、アリエルとナノの関係性が明らかになって、リオナが……

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