お掃除屋さんは大忙し!
次の朝、四人は王都の郊外へ向かった。
「以前、アンデッドが出現した場所を、順番に見て回ってるの」
アリエルが、地図を指差しながら説明する。
「何か手がかりがあれば、いいんだけど」
枯れた草地。踏み荒らされた地面。焦げたような跡。四人は、それらを一つずつ確認しながら歩いた。
「ここ一ヶ月、状況はどんどん悪くなってる」
歩きながら、アリエルが続ける。
「以前は、アンデッドの発生は、一週間に一度あるかないかくらいだった。でも……最近は、毎晩のようになってきてる」
「毎晩ですか……」
リオナが眉を寄せた。
「だから、斥候の一団が見回りを強化してる。発生を見つけたら、使い魔が知らせてくれる手筈になってるの」
「まあ! それは大変ですわ!」
アリアーゼが目を丸くした。
「お掃除屋さんは大忙しですわね。お掃除のしがいがありますでしょう?」
「あはは。アリアって、面白い事を言うね!」
ナノが、愉快そうに笑った。
◇
昼過ぎに、四人はいったん宿へ戻った。
「アンデッドの発生は、夜が本番だからね。今のうちに、少し休んでおこう」
アリエルの言葉に、それぞれが部屋へ引き上げた。
アリアーゼとリオナは、宿のひと部屋を二人で借りていた。窓辺に腰掛けたアリアーゼが、ぽつりと呟いた。
「一言で、お掃除、といっても……地道で大変な作業ですわね」
「アリアーゼ様。一応、言っておきますけど。お掃除、というのは……」
言いかけて、リオナは言葉を飲み込んだ。 アリアーゼの表情が、いつになく真剣だった。
リオナは、その表情を覚えていた。盗賊団を壊滅させた時の、あの表情と同じだ。
「リオナ」
「は、はい」
「これだけ、アンデッドが湧く、というのは……普通じゃありませんわね」
「そ、そうですね」
リオナは、思わず目を見開いた。
「いずれ、大きな被害が出る前に……何とかしないといけませんわ。わたくしたちも、できる限り協力しないと」
リオナは、そっと目を伏せた。
(ああ、これだから……アリアーゼ様には人として惹かれてしまうんだ)
リオナは小さく笑顔を浮かべた。
◇
夕方、日が傾き始めた頃。
四人が一緒の部屋で待機していると、小さな鳥が窓辺に飛んできた。使い魔だ。
「来た」
アリエルは足元にくくりつけられた羊皮紙の切れ端を外し、目を通した。
「アンデッドの発生確認。森の東側だって」
アリエルが立ち上がった。
「ナノ! 準備は?」
「えへへ。わたしもエミルちゃんも、いつでもオッケーだよ!」
ナノが白銀色の杖を掲げる。
アリエルは一つ頷き、振り返った。
「お嬢様たちは?」
「すぐにでも出発できますわ」
「よし! いくよ!」
アリエルの掛け声と共に、四人は部屋を後にした。
◇
王都の郊外の、森の中へ来た。
日は既に沈んでおり、辺りは真っ暗だ。アリエルとアリアーゼの持つ松明だけが、闇を照らしている。
「いた」
アリエルが小さく呟いた。
松明の明かりの先に、スケルトンが二体。その奥には、グールが一体、ゆっくりとこちらへ歩いてくる。
「あのくらいなら、楽勝だね」
アリエルが笑った。
その瞬間だった。
――ボコッ。
足元の地面が、不気味に盛り上がる。
ボコッ、ボコッ、ボコッ。
あちこちの土が膨れ上がり、腐った腕が地中から突き出した。
「……っ!?」
次々と、土の中から、骨の体、腐肉をまとった体が這い出してくる。アンデッドの放つ腐臭が、風に乗って漂ってきた。
「わお。予想外の歓迎じゃん! 文字通り骨が折れそうだね。お嬢様たちは、ちょっと離れてて!」
アリエルはそう言って前へ出ると、ナノへ視線を向けた。
「わたしは、お嬢様たちを守りながら、後ろから支援する。ナノ、前を頼める?」
「まかせて!」
言い終わると同時に、ナノは前線へ駆け出し、エミルちゃんを大きく振りかぶった。
「たあっ!」
一気に踏み込み、先頭のスケルトンへ躍りかかる。
ゴッ。
鈍い音とともに、スケルトンの頭部が粉々に砕け散った。
「す、すごい……」
リオナが思わず呟いた。あの一撃は、杖というより立派な鈍器だ。
「アリエル、右っ!」
ナノが振り向きながら指をさす。
「見えてるよっ!」
アリエルが指先を翻す。詠唱すらほとんど聞き取れないほどの速さで、炎の矢が放たれた。矢は正確に、三体のグールを貫いて消し飛ばした。
「まあ! お見事ですわ!」
アリアーゼが拍手を送る。それから一歩、前に進み出た。
「わたくしも、お手伝いを――」
「お嬢様は危ないから、下がってて! 危なくなったら、ちゃんと守るから!」
アリエルが振り返らずに鋭く制した。
「……ごめんなさい。お掃除のお邪魔ですわね」
アリアーゼはしゅんとして、素直に後ろへと下がった。
リオナは、隣でその様子を見ながら、ちょっとだけ吹き出しそうになった。
◇
戦況が、少しずつ厳しくなってきた。
ナノが前線でアンデッドを次々と打ち砕いていく。しかし、打ち漏らしたアンデッドが、少しずつ後方へ流れ始める。
前線だけで食い止めるには、あまりにも数が多すぎた。
お嬢様たちに危害が及ばないよう、アリエルは必死に打ち漏らしたアンデッドを迎え撃っていた。
「まいったね。お嬢様のお守りまであるから、ずいぶんきつい依頼になっちゃったな」
アリエルが小さくぼやいた、その時だった。
「アリエル! 右後ろ!」
ナノが叫んだ。
アリエルがとっさに振り向く。いつの間にか、死角から新たなアンデッドの集団が迫っていた。
アリアーゼを守るように、アリエルはその前へ飛び出した。
先頭のグールが腕を振り下ろす。アリエルは身をひねってそれをかわすが、鋭い爪がアリエルの左腕をかすめた。
「痛っ! まずい、囲まれる!」
アリエルの脳裏に、最悪の事態がよぎった。
その時。
リオナが一歩前に出ると、迷わず両手を掲げた。
「大いなる光よ、集え。闇を祓いて、その身を浄めよ」
リオナの手から光が放たれた。アリエルを取り囲もうとしていたアンデッドが、一斉に崩れ、砂となって消えていった。
「わお。助かった!」
アリエルはすぐに体勢を立て直し、迫るアンデッドへ魔法を放つ。
「ナノ!」
「うん!」
ナノも前線から駆け寄ると、打ち漏らしたアンデッドをロッドで次々と打ち砕いていく。リオナも二人の後方へ回り込んだ。
「右から来ます!」
リオナの浄化の光が走り、アリエルの魔法が撃ち抜く。
さらに、その脇をすり抜けようとした一体を、ナノのロッドが豪快に叩き砕いた。
三人は自然と息を合わせ、押し寄せるアンデッドを次々と倒していく。
やがて最後の一体が砂となって崩れ落ちると、森は静寂に包まれた。
「やれやれ。なんとか一段落したみたいだね」
アリエルが汗をぬぐいながら、こちらへ戻ってくる。
その後ろから、ナノもやってきた。あれだけ動いていたのに、髪も服装も乱れていない。息も切らしていなかった。
「お二人とも、すごいですね」
リオナは感心したように二人を見た。
「いや、リオナもすごかったよ。あんな浄化魔法、初めて見た。もしかして、あなた、聖女様?」
アリエルが感心したように問いかけた。
「ええと、聖女修業をしていたことはありますけど……。まだまだ未熟です」
リオナは少し照れくさそうに言った。
アリエルとナノは顔を見合わせると、笑い出した。
「なんだあ。言ってよ! リオナに手伝ってもらったら、もっと簡単だったよ!」
「あはは。そうだね」
アリエルとナノはお腹をかかえた。
リオナは困ったように笑うと、申し訳なさそうに口を開いた。
「すみません。あまり出しゃばらないようにしていたので……」
ちょうどその時、アリアーゼが三人の所へ駆け寄ってきた。
「まあ! まあ! まあ! みなさん素晴らしいわ! 立派なお掃除屋さんですわね!」
「でしょ? ナノとエミルちゃんのこと、もっと褒めていいよ!」
ナノはエミルちゃんを高く掲げ、胸を張った。
アリアーゼは目を輝かせながら、コクコクと頷く。
アリエルが、ふっと笑みをこぼす。リオナも、つられて小さく苦笑いした。
◇
森に静寂が戻った。
四人で荷物を整理していると。
「いたっ!」
アリエルが小さく声を上げた。
三人が振り返ると、アリエルが腕を押さえていた。
「あはは、ごめん。さっきアンデッドの爪が、ちょっとかすったみたい」
そう言って笑うアリエルの腕には、血が滲んでいた。
掃除屋さんの実力は本物でした。でもアリエルの怪我が気になります。
次回、アリエルとナノの関係性が明らかになって、リオナが……




