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婚約破棄された最強令嬢は、花嫁修業で世界を救います。でも、聖女の恋心には気づけません。〜アリアーゼの花嫁修業〜  作者: 遠崎カヲル
第四章 花嫁修業3 お掃除修業

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有名な掃除屋コンビ

 二人はゼリアスの王都を、初めて訪れた。


 王都は切り立った巌山を背に築かれ、街全体が、まるで一つの要塞のようだった。

 白茶の石造りの家々が、整然と立ち並ぶ。堅牢な造りは、グランベルの木造の建物とは、まるで違う。それでいて、冷たい印象はしない。

 屋根という屋根が朱色の瓦で統一されていて――白茶と朱の対比が、要塞都市とは思えない温もりを、街に添えていた。


「まあ、素敵な街ですわね」


 アリアーゼが目を細めた。


「要塞都市なんですね。石造りなのに、あたたかみがあるというのが、不思議です」


 リオナもそう言って、思わず見惚れた。


 ゼリアス王国は、国力ではグランベルに及ばないと聞いていた。しかし、この堅牢な造りの街並みからは、そんな劣勢は少しも感じられない。

 行き交う人々の表情も穏やかで、街全体に独特の豊かさが漂っていた。


 二人で並んで、王都の町並みを歩く。アッチム抜きで、久しぶりに二人きりだ。

 二人分の足音だけが、石畳に、響く。


「アッチム様は、今頃、どうしていますでしょうか」


 リオナが小さく呟いた。


「アッチムは聖獣様ですもの。心配は要りませんわ。きっと、自分の山でのんびりしているのではないかしら」


「きっと、そうですね」


 二人は顔を見合わせ、小さく笑った。


    ◇


 冒険者ギルドは、規模の大きな建物だった。併設された酒場から、賑やかな声が漏れてくる。

 二人は、酒場の隅の席に腰を下ろした。


「すみません。掃除屋さんのコンビについて、ご存知ありませんか」


 リオナが、近くの席の冒険者に尋ねる。


「ああ、アリエルとナノか! 有名だぜ」


 髭を蓄えた冒険者が、身を乗り出した。


「アリエルは、天才魔法使いだ。強力な魔法を、正確無比に使いこなすんだ」


 横から、別の冒険者も話に加わる。


「ナノのほうは、化け物じみた腕力だ。魔法が使えない代わりに杖で殴るんだが、あれで上級魔獣を一撃で沈めるのを見たことがある」


 周りの冒険者たちも、口々に噂を続ける。


「あの二人が来てから、この街の厄介事は、半分に減ったって話だぜ」

「まさに掃除屋だな」


 どうやら、その掃除屋コンビは相当名が知られているらしい。


「まあ!」


 アリアーゼの目が輝いた。


「なんて素晴らしい方たちでしょう。お会いするのが楽しみですわ!」


 リオナは少しだけ身構えた。めんどくさい事になりそうな予感がした。

 

 ちょうどその時。


「あ、帰ってきたぞ!」


 誰かが入り口を指さした。

 扉が開き、二人の少女が姿を現した。


 一人は、赤みがかった長い髪を揺らす少女。白いブラウスに濃紺のベスト、黒いスラックスという身軽な装いだった。


 もう一人は、銀髪を肩のあたりで切りそろえた少女。純白の膝丈のワンピースに身を包み、手には装飾の施された白銀色のロッドを持っている。


「あの赤いロングヘアが魔法使いのアリエル。銀髪の子が剛腕のナノだ!」


 その説明を聞いて、リオナは首を傾げた。

服装だけ見れば、どう考えても得意分野が逆じゃないかと思った。

 

「ただいまー」


 赤髪の少女――アリエルが、周りの冒険者たちに軽く手を挙げた。


「ナノ! わたし、ギルドに報告に行ってくるね」


 アリエルがそう言って振り返る。


「うん」


 銀髪の少女――ナノが短く頷いた。アリエルは、そのまま受付のほうへ歩いていった。


 残されたナノが、酒場の席に腰を下ろそうとした、その時。


「あの! ちょっとよろしいかしら?」


 アリアーゼが、勢いよく声をかけた。


「……なあに?」


 ナノが振り返る。その表情は柔らかい。


「あなたが有名な掃除屋さんのひとりかしら?」


 アリアーゼの問いかけに、ナノはこくんと頷く。


「そうだよ。わたしは、ナノ。そして、これがエミルちゃん」


 ナノはそう言って、白銀色の杖を掲げた。


「まあ! 杖にもお名前があるのですね!」


「うん。大切な相棒だから」


 アリアーゼは感心したように何度も頷く。


「わたくし、アリアーゼ・フォン・ローレンスと申す者ですの。少しお時間いただけるかしら?」


「長いね」


「え?」


「名前。長くて呼びにくいから、アリアでいい?」


 あっさりとそう告げると、ナノは返事を待たずに席に座った。


「ええ。呼びやすいように呼んでくださって結構ですわ!」


 アリアーゼは、にこりと微笑むと、向かいの席に腰を下ろした。


「お二人は、凄い掃除屋さんと聞きましたわ」


「まあね」


 ナノは少しだけ胸を張った。


「わたくし、お掃除に興味があるのです! ぜひ、お二人のお掃除を、この目で見せていただきたいのです。報酬も、お支払いしますわ!」


 アリアーゼはそう言うと、革袋を取り出し、金貨をいくつかテーブルの上に並べた。


 ナノは、その金貨をじっと見つめた。それから、アリアーゼに視線を向けた。


「……ん。いいよ」


 ナノは、にこりと笑った。


    ◇


「ナノ、お待たせー。あれ? この二人は?」


 アリエルが戻ってきた。ナノの隣に腰を下ろす。


「アリエル。この二人、私たちのファンなんだって。私たちに興味があるみたい」


 ナノが、そう説明した。


「え、そうなの?」


 アリエルが目を丸くした。


「こっちがアリアで、こっちが……ええと、誰だっけ?」


「あ、わたしは、リオナ・シェストロームです」


「アリアとリオナだってさ」


 ナノはそう言って、二人を順に指さした。紹介は、それだけだった。


「はじめまして、アリエルです。ところで、ファンってどういうこと? サインでも欲しいの?」


 アリエルが首を傾げる。


「お二人は素晴らしい掃除屋さんだとお聞きしました。それで、お願いがあってまいりましたの。ぜひ、お二人のお掃除の様子を見せていただきたいのです。報酬も、お支払いしますわ」


 アリアーゼはそう言うと、改めて金貨をいくつかテーブルの上に並べた。


「ちょっと、ナノ!」


 アリエルが慌てて声を上げる。


「これ、仕事の依頼じゃない! 全くもう!」


「えへへ」


 ナノは照れくさそうに頭をかいた。

 アリエルは苦笑いを浮かべると、アリアーゼとリオナに向き直った。


「ごめんなさい、ナノが失礼なことしちゃって。改めて聞くけど、私たちの仕事を見学したいってことで、いいの?」


 アリエルの言葉に、アリアーゼはしっかりと頷いた。


「それならさ。ちょうど今、アンデッド大量発生事件を追ってるの。見学したいなら、一緒に来る?」


「まあ! アンデッドのお掃除ですわね。是非!」


 アリアーゼは身を乗り出した。


「危険だけど、大丈夫? アンデッドって怖いよ? 危なくなったら、ちゃんと守るけど」


「もちろんですわ!」


 アリアーゼは目を輝かせた。


「ああ、楽しみですわ! 興奮して喉が乾いてしまいました。少し飲み物を買ってきますわ!」


 アリアーゼは、るんるんとした足取りで、酒場のカウンターへ向かっていった。

 その背中を見送ると、アリエルはリオナへ視線を向けた。


「ねえ。あなたはあのお嬢様の付き人?」


「まあ……そんな感じです」


「お嬢様に振り回されて、大変だね」


「そうなんですよ……」


 リオナは苦笑した。


「見た所、あなたは魔力も強いし、そこそこやりそうだね。じゃあ、明日の朝、ギルドで待ち合わせね」


 アリエルはそう言うと立ち上がった。


「はい、よろしくお願い……」

「よろしくお願いいたしますわ!」


 いつの間にか戻ってきたアリアーゼが、リオナの声にかぶせて言った。


「よろしくねー」


 ナノも笑いながら、ひらひらと手を振った。


 こうして四人は、翌日から行動を共にすることになった。

掃除屋コンビはなかなかの実力派です!

次回、4人は大量のアンデットに囲まれて……?

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