有名な掃除屋コンビ
二人はゼリアスの王都を、初めて訪れた。
王都は切り立った巌山を背に築かれ、街全体が、まるで一つの要塞のようだった。
白茶の石造りの家々が、整然と立ち並ぶ。堅牢な造りは、グランベルの木造の建物とは、まるで違う。それでいて、冷たい印象はしない。
屋根という屋根が朱色の瓦で統一されていて――白茶と朱の対比が、要塞都市とは思えない温もりを、街に添えていた。
「まあ、素敵な街ですわね」
アリアーゼが目を細めた。
「要塞都市なんですね。石造りなのに、あたたかみがあるというのが、不思議です」
リオナもそう言って、思わず見惚れた。
ゼリアス王国は、国力ではグランベルに及ばないと聞いていた。しかし、この堅牢な造りの街並みからは、そんな劣勢は少しも感じられない。
行き交う人々の表情も穏やかで、街全体に独特の豊かさが漂っていた。
二人で並んで、王都の町並みを歩く。アッチム抜きで、久しぶりに二人きりだ。
二人分の足音だけが、石畳に、響く。
「アッチム様は、今頃、どうしていますでしょうか」
リオナが小さく呟いた。
「アッチムは聖獣様ですもの。心配は要りませんわ。きっと、自分の山でのんびりしているのではないかしら」
「きっと、そうですね」
二人は顔を見合わせ、小さく笑った。
◇
冒険者ギルドは、規模の大きな建物だった。併設された酒場から、賑やかな声が漏れてくる。
二人は、酒場の隅の席に腰を下ろした。
「すみません。掃除屋さんのコンビについて、ご存知ありませんか」
リオナが、近くの席の冒険者に尋ねる。
「ああ、アリエルとナノか! 有名だぜ」
髭を蓄えた冒険者が、身を乗り出した。
「アリエルは、天才魔法使いだ。強力な魔法を、正確無比に使いこなすんだ」
横から、別の冒険者も話に加わる。
「ナノのほうは、化け物じみた腕力だ。魔法が使えない代わりに杖で殴るんだが、あれで上級魔獣を一撃で沈めるのを見たことがある」
周りの冒険者たちも、口々に噂を続ける。
「あの二人が来てから、この街の厄介事は、半分に減ったって話だぜ」
「まさに掃除屋だな」
どうやら、その掃除屋コンビは相当名が知られているらしい。
「まあ!」
アリアーゼの目が輝いた。
「なんて素晴らしい方たちでしょう。お会いするのが楽しみですわ!」
リオナは少しだけ身構えた。めんどくさい事になりそうな予感がした。
ちょうどその時。
「あ、帰ってきたぞ!」
誰かが入り口を指さした。
扉が開き、二人の少女が姿を現した。
一人は、赤みがかった長い髪を揺らす少女。白いブラウスに濃紺のベスト、黒いスラックスという身軽な装いだった。
もう一人は、銀髪を肩のあたりで切りそろえた少女。純白の膝丈のワンピースに身を包み、手には装飾の施された白銀色のロッドを持っている。
「あの赤いロングヘアが魔法使いのアリエル。銀髪の子が剛腕のナノだ!」
その説明を聞いて、リオナは首を傾げた。
服装だけ見れば、どう考えても得意分野が逆じゃないかと思った。
「ただいまー」
赤髪の少女――アリエルが、周りの冒険者たちに軽く手を挙げた。
「ナノ! わたし、ギルドに報告に行ってくるね」
アリエルがそう言って振り返る。
「うん」
銀髪の少女――ナノが短く頷いた。アリエルは、そのまま受付のほうへ歩いていった。
残されたナノが、酒場の席に腰を下ろそうとした、その時。
「あの! ちょっとよろしいかしら?」
アリアーゼが、勢いよく声をかけた。
「……なあに?」
ナノが振り返る。その表情は柔らかい。
「あなたが有名な掃除屋さんのひとりかしら?」
アリアーゼの問いかけに、ナノはこくんと頷く。
「そうだよ。わたしは、ナノ。そして、これがエミルちゃん」
ナノはそう言って、白銀色の杖を掲げた。
「まあ! 杖にもお名前があるのですね!」
「うん。大切な相棒だから」
アリアーゼは感心したように何度も頷く。
「わたくし、アリアーゼ・フォン・ローレンスと申す者ですの。少しお時間いただけるかしら?」
「長いね」
「え?」
「名前。長くて呼びにくいから、アリアでいい?」
あっさりとそう告げると、ナノは返事を待たずに席に座った。
「ええ。呼びやすいように呼んでくださって結構ですわ!」
アリアーゼは、にこりと微笑むと、向かいの席に腰を下ろした。
「お二人は、凄い掃除屋さんと聞きましたわ」
「まあね」
ナノは少しだけ胸を張った。
「わたくし、お掃除に興味があるのです! ぜひ、お二人のお掃除を、この目で見せていただきたいのです。報酬も、お支払いしますわ!」
アリアーゼはそう言うと、革袋を取り出し、金貨をいくつかテーブルの上に並べた。
ナノは、その金貨をじっと見つめた。それから、アリアーゼに視線を向けた。
「……ん。いいよ」
ナノは、にこりと笑った。
◇
「ナノ、お待たせー。あれ? この二人は?」
アリエルが戻ってきた。ナノの隣に腰を下ろす。
「アリエル。この二人、私たちのファンなんだって。私たちに興味があるみたい」
ナノが、そう説明した。
「え、そうなの?」
アリエルが目を丸くした。
「こっちがアリアで、こっちが……ええと、誰だっけ?」
「あ、わたしは、リオナ・シェストロームです」
「アリアとリオナだってさ」
ナノはそう言って、二人を順に指さした。紹介は、それだけだった。
「はじめまして、アリエルです。ところで、ファンってどういうこと? サインでも欲しいの?」
アリエルが首を傾げる。
「お二人は素晴らしい掃除屋さんだとお聞きしました。それで、お願いがあってまいりましたの。ぜひ、お二人のお掃除の様子を見せていただきたいのです。報酬も、お支払いしますわ」
アリアーゼはそう言うと、改めて金貨をいくつかテーブルの上に並べた。
「ちょっと、ナノ!」
アリエルが慌てて声を上げる。
「これ、仕事の依頼じゃない! 全くもう!」
「えへへ」
ナノは照れくさそうに頭をかいた。
アリエルは苦笑いを浮かべると、アリアーゼとリオナに向き直った。
「ごめんなさい、ナノが失礼なことしちゃって。改めて聞くけど、私たちの仕事を見学したいってことで、いいの?」
アリエルの言葉に、アリアーゼはしっかりと頷いた。
「それならさ。ちょうど今、アンデッド大量発生事件を追ってるの。見学したいなら、一緒に来る?」
「まあ! アンデッドのお掃除ですわね。是非!」
アリアーゼは身を乗り出した。
「危険だけど、大丈夫? アンデッドって怖いよ? 危なくなったら、ちゃんと守るけど」
「もちろんですわ!」
アリアーゼは目を輝かせた。
「ああ、楽しみですわ! 興奮して喉が乾いてしまいました。少し飲み物を買ってきますわ!」
アリアーゼは、るんるんとした足取りで、酒場のカウンターへ向かっていった。
その背中を見送ると、アリエルはリオナへ視線を向けた。
「ねえ。あなたはあのお嬢様の付き人?」
「まあ……そんな感じです」
「お嬢様に振り回されて、大変だね」
「そうなんですよ……」
リオナは苦笑した。
「見た所、あなたは魔力も強いし、そこそこやりそうだね。じゃあ、明日の朝、ギルドで待ち合わせね」
アリエルはそう言うと立ち上がった。
「はい、よろしくお願い……」
「よろしくお願いいたしますわ!」
いつの間にか戻ってきたアリアーゼが、リオナの声にかぶせて言った。
「よろしくねー」
ナノも笑いながら、ひらひらと手を振った。
こうして四人は、翌日から行動を共にすることになった。
掃除屋コンビはなかなかの実力派です!
次回、4人は大量のアンデットに囲まれて……?




