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婚約破棄された最強令嬢は、花嫁修業で世界を救います。でも、聖女の恋心には気づけません。〜アリアーゼの花嫁修業〜  作者: 遠崎カヲル
第一章 出会いと居場所

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この人ポンコツだ

 日の落ちた街道を、二人は並んで歩いていた。


 近くの町までの道のり。月明かりの下、隣を行くアリアーゼは、やはり惚れ惚れするほど美しい。

 リオナは、その横顔を、そっと盗み見た。

 王国最強の女騎士。その武名は、神殿にいた頃から聞いていた。それが今、こうして隣を歩いている。しかも――花嫁修業の旅、などと言って。


 思えば、この人と出会って、まだ数刻。

 なのに、もう、すっかり調子が狂わされている。


「あの、アリアーゼ様」


「なにかしら」


「差し支えなければ、なのですが。どうして、その、花嫁修業の旅を始められたのですか……?」


 先ほどは訊きそびれた。けれど、やはり気になる。

 アリアーゼは、ふ、と遠い目をした。


「わたくし、婚約者がおりましたの。この国の、王太子殿下」


「存じております。王太子殿下とは許嫁でいらっしゃいましたよね?」


「けれど、婚約を破棄されましてよ。舞踏会の、皆の前で」


 リオナは、思わず息を呑んだ。

 ひどい話だと思った。最強の騎士として国に尽くしてきた人に、そんな仕打ちをするなんて。


「王太子殿下には、新しい婚約者ができましたの。もう、お腹にお子も授かっているらしくて。……確か、ナターシャ、とか言ったかしら」


 あっさりとそう言った。その口ぶりには、恨みも、皮肉も込められてはいなかった。


「わたくしね、お嫁さんになるのが夢でしたの」


 そう言って、アリアーゼは小さく微笑んだ。


「それでね、わたくし、気づきましたの」


 アリアーゼは、こぶしを握って、きっぱりと言った。


「婚約破棄されたのは――わたくしに、花嫁力が、足りなかったからですわ」


「…………」


 リオナは、口を開きかけて、閉じた。


 (いや、ちがくない……? 王太子とナターシャが不貞を働いたせいじゃない……?)


 喉まで出かかった言葉を、リオナはなんとか飲み込んだ。会ってすぐの相手に言うことでは、ない気がした。


「……アリアーゼ様は、王太子殿下を、愛してらっしゃったのですね」


 代わりに、当たり障りのないことを言った。

 愛する人に裏切られたのなら、この旅も、その傷を癒やすためのものなのだろう。そう思って。


「いえ? 別に、愛してなどおりませんでしたわ」


「……え?」


 リオナは、首をかしげた。


「あの、アリアーゼ様は、お嫁さんになりたかったのですよね?」


「そうよ」


「王太子殿下の」


「そう」


「王太子殿下を、愛していた?」


「愛してないわ」


「…………」


 噛み合わない。まったく、噛み合わない。

 リオナは、少し考えて、別の角度から確かめてみることにした。


「……えっと、では。たとえば、わたしが今ここで、アリアーゼ様に求婚したら、どうなさいます?」


「それは、受けられませんわ」


「ですよね」


 よかった。ちゃんと、常識はある。リオナが、ほっと胸を撫でおろした、そのとき。


「だって、リオナは女の子ですもの」


「……え、そこ?」


 どうやら質問の仕方が悪かったらしい。


「じゃあ、わたしが男だったら?」


「うれしくて、踊りだしてしまいますわ」


 アリアーゼは幸せそうに目を細めた。

 リオナは呆れた表情を浮かべた。


「……もしかして、アリアーゼ様、お相手は、誰でもいいんですか?」


 おそるおそる、リオナは核心に触れた。


「そんなことは、ありませんわっ!」


 アリアーゼは、きっぱりと否定した。

 どうやら、誰でもいいわけではないらしい。


 そのとき。


「まだ見ぬ旦那さまに求めるのは……」


 アリアーゼが言葉を続けた。

 

 アリアーゼ様は、どんな方を望んでいるのだろう。

 リオナは、ごくりと唾を飲みこんだ。


「……わたくしの卵焼きを、美味しいと言ってくださる方でないと」


 そう言って、アリアーゼは、ぽっと頬を染めた。


「…………」


 リオナは、思った。


 ――ああ。この人、ポンコツだ。


 リオナは、心底呆れて、アリアーゼを眺めた。


    ◇


 一方、アリアーゼの脳裏には、まだ見ぬ旦那様との幸せなひとときが浮かんでいた。


『――アリアーゼ』


 あたたかな家、料理が並ぶ食卓。

 まだ見ぬ旦那様が、湯気の立つ皿を前に目を細める。


『君の作る卵焼きは、本当に世界一だね』


「んふふ」


『毎日、君の料理が楽しみで、家に帰るのが待ちきれないよ』


「んへへ……」


 旦那様が、優しく手を伸ばしてくる。アリアーゼは、うっとりと頬を寄せ――


「アリアーゼ様?」


「はっ」


 アリアーゼは、我に返った。

 リオナは、怪訝そうにアリアーゼを見つめた。


「ごめんなさい、リオナ。ちょっと、まだ見ぬ旦那様について、考え事をしておりましたの」


 (…………妄想してたのね)


 リオナは、静かに悟った。

最強なのに、どこか放っておけないアリアーゼ。

次回、二人の距離が少しだけ近づきます。


※ぜひ第4話もお楽しみください!

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