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アリアーゼの花嫁修業 〜婚約破棄された最強令嬢の無自覚スパダリムーブが聖女を射抜き、世界を救う〜  作者: 遠崎カヲル
第四章 花嫁修業3 お掃除修業

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別々の部屋

「アリアーゼ様。一つ、お願いがあります!」


 リオナの言葉に、アリアーゼは身を乗り出した。


「なんでしょう。何でも、おっしゃってくださいな」


 アリアーゼが、いつも通りの柔らかな笑顔を向けてくる。

 リオナは視線を逸らし、膝の上で両手を握りしめた。


「その……寝る時なんですが……お部屋を、分けていただけませんか?」


「まあ……別々に寝るってことかしら?」


 アリアーゼが、目を丸くする。


「あ、あの、旅の疲れが、まだ抜けなくて。このところ、寝つきが良くないんです」


 リオナは慌てて、言葉を継いだ。


「何度も、寝返りを打ってしまいますし。夜中に目が覚めることもありますし。アリアーゼ様のご迷惑になってしまうかと」


「あら。わたくしは、別に構いませんわよ」


 アリアーゼはあっさりと、そう言った。


「リオナが、隣でどれだけ動こうと、気になどなりませんもの」


「いえ、あの」


 リオナは言葉に詰まった。


(――そうじゃなくて)


 リオナは必死に言葉を探す。


「その、わたしのほうが……その、休まらなくて」


 声が小さくなる。


「疲れが、取れないんです」


 言ってしまってから、しまったと思った。こんな言い方では、アリアーゼ様を傷つけてしまうかもしれない。

 おそるおそる、アリアーゼの表情を伺う。


「まあ。それは、いけませんわね」


 アリアーゼは気にした様子もなく、顎に指を添えた。しばらく、何かを考え込んでいる。

 リオナは、うつむいたまま、待った。


「そうですわね……」


 やがて、アリアーゼが口を開いた。


「危険は、なさそうですわね。リオナのためなら、それもいいかもしれませんわね」


「……危険、ですか?」


 リオナは顔を上げた。アリアーゼの言葉の意味がすぐに理解できなかった。


「あ……」


 アリアーゼは、しまったという顔で口元を押さえた。


    ◇


「……あの、アリアーゼ様?」


「……」


 アリアーゼはしばらくの間、視線を泳がせていた。

 やがて、観念したように小さく息を吐く。


「……リオナの負担になりたくなかったので。あまり言いたくはなかったのですけれど」


 その頬が、ほんのりと赤く染まった。


「これは、わたくしの勝手な想像なのですけれど。聞いてくださる?」


「……はい」


 リオナは、小さく首を傾げると、頷いた。


「あなたは、ご実家の承諾を得ずに、逃げてきたのでしたわよね」


「……はい」


「あなたのご実家は、あなたのことを、探しているのではなくて?」


 リオナは、目を伏せた。


「……きっと、そうだと思います」


 商家の再建のために、決められた縁談だった。逃げた娘を、そのままにしておくとは思えない。


「ですから、わたくしは、グランベル王国を出ようと思いましたの」


「――え?」


 リオナは息を呑んだ。

 一緒にに王国を出た日のことを思い出す。


 国境の関所。

 長い列。

 若い女を念入りに検めていた衛兵たち。


 あの日、リオナは不安で震えていた。

 そして、アリアーゼは、当然のようにその前に立ってくれた。


 あの時の自分は、この人を疑ってすらいた。

 婚約を破棄されて、国から逃げ出そうとしているのかもしれない、と。


「それに」


 アリアーゼは、照れくさそうに、続けた。


「もし、追っ手に、この場所を知られたとしても、同じ部屋で眠っていれば、わたくしは間違いなく、あなたを守れますわ」


「……」


「だから、どうしても、ベッドを一つにしたかったのです」


 リオナの頭の中が、真っ白になった。


(――ああ)


 夫婦生活とは、一つのベッドで眠るものだと、この人は言った。

 理屈がおかしいと、自分は反論した。押し切られて、ため息をついた。


 その、全部が。

 自由気ままに見えた、あの行動のすべてが。


(――わたしの、ためだった)


 すべてが繋がった。


「わたくし、それくらい、あなたを大事に思っておりますのよ。……お恥ずかしいですわ」


 アリアーゼは、そう言うと、さらに頬を赤く染めた。


    ◇


 リオナは、しばらく動けなかった。


 顔が熱い。

 けれどそれは、さっきまでの熱とはまったく違うものだった。


(――わたしは)


 勝手に意識して、勝手に眠れなくなって。

 挙句に、部屋を分けてくれ、などと申し出てしまった。


(――なんて、恥ずかしい)


 消え入りたい気持ちで、うつむく。

 必死に言葉を探した。しかし、リオナよりも早く、アリアーゼが口を開いた。


「今ならアッチムもおりますし、危険は少ないと思います。リオナが、そうしたいと言うのなら、そうしましょう」


 アリアーゼは、にこっと笑った。


「まあ、そうと決まれば、支度をいたしませんとね」


「……は、はい」


 リオナは、うつむいたまま、小さく頷くしかなかった。

リオナは、ようやくアリアーゼの本当の想いを知りました。

次回、初めての別々の夜を迎えます。

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